被爆から64周年を迎えた今年、非核・平和を願う声がこれまで以上に高まっている。米国のオバマ大統領が、核兵器を使った国として「行動する道義的責任がある。核兵器のない世界を目指して具体的な方策を取る」と述べたプラハ演説への反響が、想像以上に大きい。原爆投下国の大統領が非核の決意を語ったことが、これまでと違う流れを感じさせたからだ。
広島・長崎への原爆投下では、韓国人も大きな犠牲を被った。韓国人被爆者は合わせて約7万人(被爆直後に約4万人が死亡)と推定される。その被爆者の一人に在日2世でプロ野球解説者の張勲(張本勲)さんがいる。
張さんが広島で被爆したのは5歳の時だ。住んでいた6畳一間の長屋は爆風で吹き飛ばされ、母と当時8歳の姉とともに近くの畑に逃げまどった。勤労動員に行っていた11歳の長姉は全身にケロイドを負い、「熱いよ、痛いよ」と叫びながら死んでいくのを、家族で泣きながら見取った。張さんは、「あれこそ生き地獄だった」と当時を振り返っている。
張さんはプロ野球界で3085安打の大記録を打ち立てた。「負けてなるか」の精神は、被爆の苦しみを背負ったゆえでもあった。被爆手帳を持つただ一人のプロ野球選手でもあるが、被爆体験を自ら語ることは少なかった。しかし、「語らない限り、伝わらない」と思いなおし、この間、積極的に発言している。
毎年8月5日には広島で韓国人原爆犠牲者慰霊祭が行われている。この1年で亡くなった14人を加え2647人の死没者名簿が奉納されたが、未だに身元不明の韓国人犠牲者が沢山いる。オバマ演説を契機に日本では、これまで沈黙していた被爆者や被爆2世も積極的に発言を始めている。在日、そして韓国人被爆者の声にも改めて耳を傾けてもらいたいし、実態の再調査も必要だろう。韓半島、そして世界の非核化へ、在日社会も尽力したいものだ。(L)