ミュージシャンの加藤和彦さん(62)が先日自殺した。うつ病で長く通院していたという。加藤さんといえば思い出されるのが、ザ・フォーク・クルセダーズ時代の68年に発表した「イムジン河」だ。イムジン河(臨津江)は全長354㌔、北から38度線沿いを流れて漢江にそそぐ、南北を結ぶ唯一の大河だ。
「イムジン河水清く/とうとうと流る/水鳥自由にむらがり飛びかうよ/だれが祖国を二つに分けてしまったの」
多くの人が、その美しい曲に魅了された。南北分断の悲劇を歌ったことへの驚きもあった。
加藤さんの友人の松山猛さんが、京都の朝鮮学校を訪ねた際にこのメロディーを聞いて気に入り、歌にしたという。反戦・平和運動が盛んな時代、「民族統一を夢見る隣国の人たちへの思い、共感を、日本の若者として表現したかった」とのことだ。
しかし、加藤さんらが作者不詳と思っていた曲が、実は北朝鮮に作詞・作曲家が実在し、歌詞の一部が原曲と違う翻訳になっているなどのクレームを受けて、レコード会社が発売を自主規制した。当時の複雑な政治状況が招いたものとはいえ、残念な出来事だった。
それから長い間、幻の名曲となっていたが、加藤さんらは自主レコードを製作し、コンサートなどで歌い続けていた。松山さんが著書「少年Mのイムジン河」で当時を振り返り、それを元に映画「パッチギ!」(05年)が作られ、「イムジン河」が歌われたことで、再び広まっていった。加藤さんらが若き日、隣国の痛みを知ろうとした願いは、40年経って実現したともいえる。いまではイムジン河は、加藤さんらの曲、原曲に忠実な曲の2バージョンが多くの歌手によって歌われている。
イムジン河の歌は、鳥のように南北を自由に往来する日への願いが表現されている。一日も早く実現されることが、加藤さんの哀悼にもつながるだろう。(L)