川崎市ふれあい館(神奈川)が運営する識字学級に通う在日1世の女性たちの声をまとめた、「在日コリアン女性20人の軌跡 国境を越え、私はこうして生きてきた」(明石書店)が、このほど出版された。在日1世への聞き取りはこれまでも行われているが、女性だけの聞き取りは珍しい。
1930年代半ば、12歳で韓国・慶尚南道から日本に来た河徳龍さん(ハ・ドンヨン、88)の例。弟や妹の子守のため学校に通うことが出来ず、大家から(朝鮮人ということで)井戸を使わせてもらえなかった。15歳で顔も知らない相手と結婚し、戦後は4人の子どもを女手一つで育て上げた。
他にも、炭鉱の強制労働から逃げ出した同胞たちを、命がけでかくまった女性、子どもたちをくず鉄拾いをしながら育てあげた女性、北朝鮮に行った息子の安否を今も心配する母の心情などが収められている。
日本による植民地支配、その後の南北分断という激動の歴史に翻弄されながらも、たくましく生きてきたハルモニ(おばあさん)たちの証言は、貴重な在日史の一断面だ。この中で一つの特徴がある。ハルモニたちは教育機会がなかったことだ。読み書きが出来ないため、自分史を残せなかったのだ。
ふれあい館の裵重度(ペ・ジュンド)・館長は、「苦労を生き切ってきた者どうしの共感、そして平和への願い」を感じてほしいと言っているが、確かにハルモニたちの苦難は、戦後の混乱を生き抜いた日本や韓半島、そして沖縄の女性たちとも共通する。また在日の若い世代にとっては、自らのルーツを再確認することにもなろう。
聞き取りをした女性20人のうち、すでに5人が亡くなっている。もはや時は待ってくれない。1世の多くは80、90歳代である。一人でも多くのハルモニの声を残してほしいものだ。聞き取り作業を継続し、「女性たちが見た在日史」を伝えてほしい。(L)