文化財は民族の歴史を伝えるとともに、民族の自尊心を象徴する存在だ。その大切な文化財の一つで、韓国政府が以前から返還を要請してきた「朝鮮王室儀軌」が、返還されることになった。韓国政府の強い働きかけを受け、管直人首相が「譲渡」という形で表明したものだが、その決断を評価したい。
「朝鮮王室儀軌」とは、朝鮮時代の王室と国家の主要行事を記録した貴重な歴史資料で、このうち81種167冊が1922年、朝鮮総督府によって日本に持ち出され、現在は宮内庁に保管されている。
文化財返還問題は戦後、韓日間の懸案事項となった。1965年の韓日条約締結時に、「韓日の文化財及び文化協力に関する協定」が結ばれ、約1300点の文化財が返還されたのだが、これはほんの一部に過ぎない。
韓国政府が返還を求めている文化財は、ほかにも帝室図書(朝鮮王朝所蔵の図書)や経筵(王が教養を磨くため受けた講義資料)などがある。管直人首相は「朝鮮王室儀軌等」という表現で、他の文化財返還にも含みを持たせたが、ぜひ実現させてほしい。
またそれ以外にも、東京オークラホテルの大倉集古館にある、やはり植民地時代に持ち出された「利川五層石塔」の返還を、京畿道の利川市が求めている。高麗時代に建てられた高さ約6・5㍍の石塔で、1915年に韓国併合5周年を祝って利川から移設された。植民地統治下だから、これだけの石塔を持ち出すことも可能だったのだろう。
植民地時代、日本に流出した文化財は韓国政府の調査で約6万1000点。個人が持ち出したものなどを入れると約30万点ともいわれるが、その全体像はつかめていない。韓国ではこの数年、文化財返還を求める動きが急速に高まっている。韓日両国が協力して流出文化財の調査を行い、返還への動きを加速させることが、新たな韓日関係構築につながると確信する。(L)