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2010/10/08

<鳳仙花>◆「奇跡の文字」ハングルの誕生◆

 10月9日は「ハングルの日」。いまから560年ほど前の1446年に朝鮮朝第4代国王の世宗の命により創り出された「奇跡の文字」の公布を祝う記念日だ。何が奇跡かといえば、当時の圧倒的な漢字文化のなかで、現代の言語学者も舌をまくほどの精緻な「音の分析」によって合理的な仕組みと美しさを兼ね備えた文字を創ったからである。一体、どのようにしてハングルをこの世に誕生させたのだろうか。そこには集賢殿(世宗が宮中に設置した学問研究所)に集まった精鋭たちの知の革命があった。

 それまで韓国で書かれた言葉のすべては漢字、漢文であり、実際に話されている言葉を表す文字ではなかった。ハングル創製者たちは、実際に話されている「音」を文字化するための研究に全精力を注ぎ、音声器官の形を象形する方法でハングルの字母を発明した。その40の子音と母音の組み合わせで表すことができる文字は1万1172字に及ぶ。耳で聞いた「音」を記号化するためには驚くべき知性と努力が必要だったが、世宗の周りに集まった20代、30代の若い学者たちは、現代音韻学に匹敵する知性だった。

 ハングルがいかに合理的な文字であるかは、独自の言語はあるが表記する文字を持たないインドネシアのチアチア族が自らの言語を表記する公式文字としてハングルを導入したことからも分かる。

 今年のアジア・太平洋賞を受賞した野間秀樹・前東京外国語大学教授著「ハングルの誕生 音から文字を創る」(平凡社新書)は、そんなハングルの「音が文字になる」奇跡の瞬間とハングル創生を再現した本だが、ハングルという文字システムを理解する上で必読の一冊だと思う。

 韓国で「世宗大王」と呼んでいるのは、その民衆を思う真心を尊敬し斬新な発明を心から誇りに思っているからである。そんな世宗大王と若き学者たちの心意気に改めて敬意を表したい。最近は日本でも多くの人がハングルを学んでいる。ハングルを創り出した人たちの知の格闘にも思いを馳せるならば、学習効果はさらに上がると信じたい。(S)