韓国でいま福祉論争が起こっており、来年の国会議員選挙、大統領選挙の最大の争点に浮上しているという。問題は、与野党とも、福祉重視を世論に訴えることで福祉ポピュリズムに陥るのではないかという心配だ。国会に提出された来年度予算案の福祉関連予算も過去最大の90兆ウォンを突破、全予算の28・2%を占めているが、国会審議過程ではさらに上乗せされると予想されている。これに対して懸念する声もあるが、韓国の福祉問題をどうみるべきだろうか。
福祉関連予算の増大を懸念する人たちの論点は、「いま最も懸念されるのは世界に広がる経済危機であり、こうした状況の中での福祉ブームは韓国財政の脅威だ」というものだ。確かに、財政問題をないがしろにできないが、実は韓国はその経済力に比べて、福祉のレベルはかなり低いことも留意すべきだろう。
日本や欧米先進国の福祉関連予算が全予算に占める比率は40~50%台だが、韓国は20%台にすぎず、福祉政策はまだ立ち遅れているのが現状だ。しかも、急速に進む少子高齢化や格差拡大が大きな社会問題になっており、福祉拡充が急がれている現実がある。
韓国での本格的な福祉政策の取り組みは、金大中政権時代の「生産的福祉」政策が始まりで、続く盧武鉉政権時代には最先進福祉国家の建設が目標に掲げられたが、福祉国家実現のためには、高齢者や障害者、低所得層や失業者に優しい社会でなければならないだろう。失敗しても再トライできるセーフティーネットを整えることが要諦である。ところが、韓国で年間自殺者がこの10年間に2倍以上の1万5000人を超え、自殺率が日本を抜き世界最高レベルの31・2人(10万人当り)であることは、社会が生き難いと感じているからに他ならない。
もちろんポピュリズムに陥ってはならない。福祉に対する財政支出が効率的に用いられるようにするのは当然であり、経済成長に直接貢献できる福祉政策を立案することも求められる。我々は、北欧諸国など福祉先進国の成功・失敗の経験を生かすこともできる。人類社会の新たなモデルたりうる福祉ビジョンを提示する決意で福祉政策に取り組んでほしい。(S)