韓国で「鉄の男」と呼ばれる故朴泰俊・ポスコ(旧浦項製鉄)名誉会長が、米国の鉄鋼王、カーネギーらと共に「鉄鋼の殿堂」入りした。世界の鉄鋼専門誌で最長の歴史を持つ「アメリカン・メタル・マーケット」誌が、世界の鉄鋼業界で影響力を発揮したリーダーの功労と業績を称えるため今年新設したもので、殿堂入りした人物の業績を示す資料は、8月から米オハイオ州の鉄鋼博物館で展示される。鉄鋼不毛の地に世界屈指の一貫総合製鉄所を建設、経済発展や産業の近代化に貢献した朴泰俊氏に対する評価は世界的であることを示すものだ。
資金も技術もない1968年の韓国で製鉄所が必要だと考えたのは、朴正熙大統領と朴泰俊氏だけだったといわれる。事実、欧米諸国や国際機関からは協力を得られず、夢物語に終わる恐れがあった。
だが、朴大統領から製鉄所の建設を任された朴氏は、対日請求権資金を使い、新日鉄を説得して技術を導入した。「失敗すれば迎日湾に飛び降りる」覚悟で、文字通り血と汗でつくったのがポスコだ。朴氏はスローガンに「製鉄報国」を掲げた。対日請求権資金使用に恥じぬよう、産業のコメである鉄を十分に作って国家に報いるという誓いだ。
当時、朴氏と日本の政財界との仲介役を果たされた故安岡正篤氏は、朴氏のことを「快男児」と評した。次男の正泰氏は本紙とのインタビューで「何でもやり遂げるという気骨と品格や風格を見て、日本の経済界や財界のトップに紹介してもいいのではということが根底にあったのだと思う」と語った。
韓国で「鉄鋼王」のタイトルでドラマ化が進められている。全24話で年末にKBSが放送予定だが、立志伝中の人物だけに、どんな風に描かれるのか、とても楽しみだ。
だが、ポスコはいま内憂外患を抱えている。株式を持ち合っている新日鉄との特許権訴訟。鄭俊陽会長就任に政府が介入したという説。積極果敢な投資による財務構造への影響 。やはり原点に戻るべきだろう。朴氏が掲げた「製鉄報国」の魂を甦らせる時ではないか。(S)