人事シーズンを迎えた韓国の大企業で、近来にない注目すべき人事があった。LG電子で初めて高卒の社長が誕生したのである。高卒ではまず出世は望めない雰囲気があるだけに、今回の人事は、学歴と学閥を重視する韓国の社会風土に大きな風穴をあけたのは間違いない。
家電部門の新社長に昇進したのは趙成珍(チョ・ソンジン)・家電事業本部長(56)。工業高校卒業後、36年間にわたり洗濯機一筋に取り組み、数々の新製品を開発し、実力で社長の座に上りつめた。LG電子に入社した1976年当時、韓国の洗濯機普及率は1%程度で、新入社員は洗濯機事業部を嫌がった。だが彼は洗濯機設計を志願し、設計・モーター開発に取り組んだ。設計室長に就任した1995年、日本技術に依存した状況から脱皮し、独自技術で洗濯機を製造すると決意。工場2階にベッドと台所を備えつけ、開発チームの同僚と合宿体制で製品開発に没頭した。
そして1999年、モーターが直接、洗濯槽を回すことでエネルギー効率を高めるDD(ダイレクトドライブ)システムを世界に先駆けて開発した。その後、ドラム洗濯機開発にも成功。LG電子は、世界洗濯機市場で昨年シェア10・9%を占めるトップメーカーに成長した。今年米国で販売した世界最大容量のドラム洗濯機は米消費者情報誌のコンシューマーリポートで最高の商品に選ばれた。
趙氏は当時を振り返って、「初めの10数年間は日本の技術を真似るのに必死だった。頻繁に日本に行き、酒をおごったりして生産ラインも見学。日本に行った回数は150回以上になる」と語った。
このような実績のある人材が社長になるのは当然かも知れない。だが、これまでの韓国の学歴主義はそれを妨げてきた。
今回の人事は、能力さえあれば、だれでもトップになれることを立証したという点で意義深い。学歴ではなく、実績が尊重されることが証明されることで、実績重視の競争ルールができた。第2第3の趙氏が誕生することを期待したい。(S)