「1世のハルモニ(おばあさん)は字を書けなかった」という経験を持つ在日コリアンは、最近はどれだけいるだろうか。数十年前のことだが、亡くなった祖母は字が書けず、病院で診察を受ける時など手続きのために、中学生だった小生が付いて行った記憶がある。
植民地時代の学校に通えない貧しい暮らし、また女性に学問は不要との社会的規範の中で、ハルモニたちが教育を受ける機会が無かったと知ったのは大分先のことだった。
そんなハルモニたちが、70歳前後になってから学んだ書や作文、絵画の展示会が、東京・新宿の高麗博物館で開かれ、静かな話題を呼んでいる。
同展については以前にも触れたが、神奈川県の川崎市ふれあい館で2004年に始まった識字学級の生徒たち、十数人の作品約90点で構成されている。自らの半生を振り返った作文、野菜や魚などを描写した絵など、どれも個性的で、その作品一つ一つから、ハルモニたちの人生が伝わってくる。「学ぶことは生きる力」と本当に実感させられた。
ハルモニたちに字や絵を教えた日本人ボランティアの人たちも、ハルモニたちの半生を通して在日の歴史を知り、相互に交流が深まったという。まさに生きた歴史学習の場といえるだろう。
同展が開かれている新大久保コリアンタウンは、韓流の聖地としてブームになったが、最近では残念なことにヘイトスピーチ(憎悪表現)のデモが頻発している場所でもある。
日本の若者にぜひハルモニたちの作品を見てほしい(6月2日まで)。さらには先日来日した、従軍慰安婦にさせられた女性たちの生の声なども聞いて、彼女たちの平和への願いを感じてほしい。
また韓国の若者には、日本の広島や長崎の原爆資料館をぜひ訪ねて、核の恐ろしさを実感してもらいたい。そういう積み重ねが、相互理解に結びつくと信じる。(L)