「アリランを悲しそうに歌っていた(まだ少女の)従軍慰安婦の姿が忘れられない」と、沖縄の日本女性がアリランの一節を歌う。在日2世の朴壽南監督によるドキュメンタリー映画、『ぬちがふう(命果報)~玉砕場からの証言』のワンシーンである。何と悲しいアリランだったことか。
今月23日は、20万人ともいわれる太平洋戦争末期の沖縄戦犠牲者を悼む「慰霊の日」だった。「玉砕」「集団自決」という名のもとに多くの日本兵や住民が犠牲となった沖縄だが、その中に韓国人軍属や従軍慰安婦も多数いた事実は、あまり知られていない。
映画は、沖縄戦を生き残った現在90歳前後の人たち約30人が、これまで語られなかった韓国人軍属や慰安婦の犠牲について重い口を開く。朴壽南監督が20年近くかけて制作した力作で、いま各地で自主上映され、静かなブームになっている。歴史の真実を伝える貴重な作品だ。
朴壽南監督は、アイデンティティーを奪われた在日と沖縄という体験の共有から、映画の取材を始めたという。その真しな姿勢が心を開いたのだろう。
映画のラスト近く、一命をとりとめた韓国人元軍属たち6人が半世紀ぶりに沖縄を再訪し、しまんちゅ(島人)と共に、集団自決や虐殺の現場を探す。ひもじさに耐えかねて稲穂を盗んで食べ、日本軍に処刑された仲間の無念さについて、彼らが慟哭しながら話す姿は忘れられない。犠牲者を決して忘れてはいけないという思いが切実に伝わってくる。
従軍慰安婦にさせられたつらい過去にムチ打つ発言や、歴史への無理解な言動が続く昨今、この証言者の声にぜひ耳を傾けてほしい。
同映画は今後、大阪・京都・川崎など、同胞密集地がある場所でも上映される。秋の山形国際映画祭にも出品予定という。韓日、在日をはじめ、世界の若者たちにぜひ見てほしい映画だ。(L)