６年前の４月、取材で済州島を訪れた。どこも修学旅行生であふれ返り、学生たちがはしゃぐ姿を見て、ほほえましく思ったものだ。そんな楽しい旅が一転した旅客船・世越号の沈没事故から、１カ月になる。捜索は難航し、いまだ多数の乗客が行方不明のままだ。遺族の苦しみはいかばかりだろう。

　今回の事件が韓国にもたらした衝撃は計り知れない。韓国各地に設けられた合同慰霊所には、いまも大勢の市民が訪れ、献花し、追悼の言葉を残している。犠牲者と同年代の若者たちからは、「姉さん、兄さん、もう二度とこんな国に生まれないでください」などの文言が寄せられている。何と悲しい言葉だろうか。

　船会社の常態化した過積載、乗客を置いて逃げた船長らの信じがたい行動、行政指導をきちんと行わなかった官僚たち…、大人たちが作り上げてきた無責任システムが、助けられたはずの高校生たちを大勢殺すことになった。どれだけ悔いても悔い切れない出来事であり、国民一人ひとりが、これまでの国のあり方を自省する結果になったのも致し方ないといえるだろう。

　しかし、そんな悲劇の中でも「殺身成仁」の精神を発揮した客室乗務員や高校生、先生たちがいた。「殺身成仁」とは「自分の命を犠牲にしても仁を成す」という論語の言葉だ。

　高校生たちを一人でも多く助けようと、救命胴衣を最後まで配り続けて亡くなった客室乗務員のパク・ジヨンさん、逃げ遅れた生徒を助けようと船室に戻り、帰らぬ人となった壇園高校の先生、自分の救命胴衣を友人に譲り、おぼれた人を助けようと海に飛び込んで亡くなった同校２年生のチョン・ジャウン君などがその人たちだ。

　沈没事故という絶望と混乱の中でも輝きを放つ、「名誉の死者」の行いを救いとし、二度と事故を起こさない若者たちに誇れる社会を、大人たちが作っていかなければならないだろう。（Ｌ）