都内で開催中の2つの展覧会が、強く印象に残った。一つは森美術館で開催中の「ゴー・ビトゥイーンズ こどもを通して見る世界」(8月31日まで)だ。入ってすぐ、チマ・チョゴリ(韓国の民族衣装)姿の女の子とおばあさんの大型の家族写真が目に飛び込む。在日の女性アーティスト、金仁淑(キム・インスク)さんによる《ひいおばあちゃんと私》と題された作品だ。自らの家族を撮影した作品を通して、在日コリアンの歴史とは、アイデンティティーとは何かを観客に訴えかけている。
ヘイトスピーチ(憎悪表現)が問題になった日本だが、その根底には在日コリアンや隣国への理解不足がある。在日コリアンの家族写真を登場させた背景には、「在日の歴史を知ろう」という主催者の意図が込められているようにも感じた。
ゴー・ビトゥイーンズとは「媒介者」という意味で、19世紀後半のニューヨークで貧しい移民の暮らしを取材した写真家ジェイコブ・A・リースが、英語が不自由な両親の橋渡しとなった移民の子どもたちをそう呼んだという。
もう一つは、世田谷文学館で開催中の「茨木のり子展」(29日まで)だ。女性の自立、平和の大切さを訴え続け、中学校の教科書にも登場する著名な詩人であり、50歳で韓国語を学び始め、その14年後に韓国現代詩の翻訳刊行を果たしたことでも知られる。
韓国語の師だった金裕鴻さんとやり取りした手紙や著書などからは、ハングルを学ぶことで韓国文化に触れた喜び、韓国を植民地化してハングルを抹殺しようとした歴史への怒りが伝わってくる。
後半生を韓国との交流に尽くした茨木さんは、病に倒れた直後から家族・友人らに遺書を残した。金さんへの最後の手紙には、「韓国語を学んで本当によかった」という感謝の声がつづられている。韓国と誠実に向き合った茨木さんの生き方は、韓日関係が厳しい今だからこそ、学ぶべき点が多いと感じさせられた。(L)