旅客船・世越号沈没事故から3カ月近くになる。懸命の捜索活動が続けられているが、いまだ11人の行方不明者がいる。一日も早く、全員の安否が判明することを願いたい。その捜索活動と並行して取り組まなければならないのが、生存者、犠牲者・行方不明者の家族、捜索にあたっている潜水士・警察官らへの心的対応だ。
生存者の中には、いまだに入院生活を送ったり、退院しても社会生活への復帰が困難な状態に置かれている人が多数いる。事故発生当時を思い出して悪夢や不眠症にさいなまれたり、自分だけ助かったことに罪悪感を感じたり、身体の震えが止まらないなどの症状が報告されている。子どもを亡くした親の中には、自殺をずっと考えている人もいるという。
最近では、珍島で捜索活動にあたっていた警察官のひとりが自殺するという事件も起きた。傷ついた遺体を検死したり、遺族の苦しむ姿を見て、トラウマを抱えていたという。痛ましい出来事だ。行方不明者の家族が宿泊する体育館で、家族らの世話をしているボランティアも、事故の悲惨さと長期化で、体調不良と心的苦痛を抱えている人が多いという。
今回の沈没事故がどれだけ大勢の人を傷つけたか、本当に計り知れない。大事故や戦争を経験した人たちのトラウマの深刻さは、世界的にも多数報告されている。医師やカウンセラーらによる沈没事故関係者のトラウマ治療を、早急かつ長期的視点で行ってほしいと願う。
また、家族らが要望している「特別法」の早期制定も重要だ。沈没事故の真相を究明し、その責任者を処罰するなどの内容が盛り込まれ、家族らは署名活動を始めている。法的効果はもちろん、署名に協力することで全国民が事故を忘れてはいないこと、二度と事故を起こさない国民全体の決意を家族に伝えることができる。それは家族の精神的負担を、少しでもやわらげることにつながるはずだ。(L)