◆産学協同研究開始し新たな事業領域を開拓◆
市場調査機関ガートナーによれば、2011年第4四半期基準でグーグルのアンドロイド(50・9%)とアップルのiOS(23・8%)を合わせた基本ソフト(OS)の市場占有率は74・7%に達する。同時期、サムスン電子の基本ソフトBada(海)のシェアは、わずか2・1%にとどまっている(図表)。自ら基本ソフトを開発しなければ、グーグルとアップルに従属するしかない。もし無料で使用しているアンドロイドが有料化になれば、サムスン電子の利益は一瞬にして吹っ飛ぶ。
崔志成副会長は、12年4月のCEOメッセージを通じて「ハードウエアの競争力を基に、ソフトウエアとユーザーインタフェース・ユーザーエクスペリエンス、デザイン、ブランドなどソフト開発能力を強化しなければならない」と訴えた。これまでも崔志成副会長は「どんな時代でも不確実性と危機を克服する原動力は人材であり、ソフトウエア、サービス、コンテンツなどソフト分野で優秀な人材と専門性・柔軟性を兼ね備えた人材を積極的に発掘して育成しなければならない」と力説していた。
サムスン電子のソフトウエアの開発体制は急速に整備されている。11年12月、未来技術開発に専念するソフトウエアセンターを新設し、14年には、関連する研究機関を統合したソフトウエアユニバーシティーを開設する計画である。
既存のソフトウエア担当であるS職群(11年9月に新設された優遇職)が、短期的な開発組織として位置づけられるのに対し、昨年末に新設されたソフトウエアセンターは、中長期的な将来を見据えた研究開発組織である。サムスン電子の技術開発でいえば、基礎研究に携わる総合技術院のソフト版に例えられよう。
さらにサムスン電子は、ソフトウエアアカデミー、サムスンデジタルシティー、先端技術研究所など3つの研究機関を14年までに統合して、ソフトウエアユニバーシティーをスタートさせる計画である。
ソフトウエアアカデミー(12年1月開設)は、サムスン電子のソフトウエア教育を専門に担当する機関、サムスンデジタルシティーはアプリケーション担当、先端技術研究所は、ソフトウエアプラットホームなどを開発する研究所である。11年までにこれらの機関で教育を受けた社員は6000人に達する。
サムスン電子のソフトウエア開発は、社内の体制整備とともに大学との協力関係が目立つ。11年5月、サムスン電子とソウル大学校が、ソフトウエア共同研究センター(CIC=Center for Intelligent Computing)を設立し、産学共同研究を開始した。サムスン電子はCICの研究インフラの構築、関連機資材の導入、プログラム運営費などを引き受け、ソウル大は教授陣も参画する。特に、CICはソフトウエアを研究する開放型研究センターで、ソフトウエアに関心がある学生は誰でも参加して活用できる。ソフトウエアを専攻するコンピュータ工学部の学生たちはもちろん、ソフトウエア関連サークル学生や他学科の学生も参加できる。
また11年11月にサムスン電子は、成均館大学校とも優秀な人材養成のため「ソフトウエアサムスンタレントプログラム」の運営協約を締結した。サムスン電子と成均館大は協力して、ソフトウエアアーキテクチャとプラットホーム専門家を養成する計画である。このプログラムは学部と大学院を統合して5年制の「学・修士連携課程」として運営され、学生たちが実務プロジェクトに参加し、インターンシップ等を通してソフトウエア能力を鍛える。
学生たちは2学年2学期にサムスン電子採用試験を受けることができ、合格した学生は、サムスン電子への就職が保証されるだけでなく、3年間サムスン電子から奨学金が支給される。
このようにサムスン電子は、ソフトウエア関連部署の拡大にとどまらず、主要大学との連携による人材育成にも先を見通した手を打っており、10年後の最先端技術によるプレミアム製品とともに、世界一流のソフト開発企業として新たな事業領域を開拓しているであろう。
ただしソフトウエアに軸足を移した日本企業の多くが失敗していった現実を見ると、この分野で成功に至るには多くのリスクが伴い、この意味ではサムスン電子は大きな賭けに出たといえよう。