ここから本文です

2012/08/10

<Korea Watch>サムスン研究 第11回 デザイン戦略会議                                                  日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第11回 デザイン戦略会議

◆特許訴訟契機に技術からUI分野に重点◆

 サムスン電子のデザイン開発は、2001年から最高経営責任者(CEO)直属のデザイン経営センターが司令塔になっている。尹富根・映像ディスプレー事業部社長をトップに、このセンターにはデザイン専門担当者1000人余りが活動している。事業部社長がデザイン経営センター長を兼任している点、つまりモノづくりとデザイン開発が連携している点に組織上の大きな意味がある。

 デザイン経営センターは、消費者ニーズを把握して商品コンセプトを決定し、次に商品企画と開発が進行するように「先にデザイン、後に開発」体制を確立した。サムスン電子初めてのテンミリオンセラー製品の携帯電話T100などが、デザイン経営センターの手により、革新的なデザイン製品として世界に送り出された。昨年11月には日本の「グッドデザインアワード2011」において、スマートTVのD8000シリーズが金賞を受賞したのも記憶に新しい。

 デザイン経営センターは海外にも拠点を構築しており、米国・ロサンゼルス、英国・ロンドン、日本・東京、中国・上海、イタリア・ミラノ、インド・デリーなど6カ所にデザイン研究所がある。中国・上海の中国設計研究所の場合、韓国と中国を直結したデザインネットワークを構築しており、中国人の消費パターンの分析等を通して、中国人の文化やライフスタイルに適応したデザイン開発を行うとともに、グローバルデザインとして通用するデザイン開発という双方向の役割を志向している。なおデザイナーを養成している組織が、1993年に設立されたサムスン・デザイン・メンバーシップというサムスンデザイン学校である。このデザイン学校は100%サムスンの資金で運営されており、卒業してもサムスンへの就職は義務ではないが、卒業生のほぼ半数がサムスンに就職している。

 05年4月に伊ミラノで開催されたデザイン戦略会議がデザイン重視への大きな転換点になった。さらに11年4月に勃発したアップルとのデザイン訴訟は、デザイン特許が製品の競争力に直結するという強い認識をサムスン電子にもたらし、新たな価値創造への道筋を示すことにもなった。11年10月に開催されたデザイン戦略会議において、崔志成副会長は、「サムスンのデザイン特許競争力を高めるように」と訴えた。続けて「製品競争力劣らずデザイン競争力をグローバルトップの水準に引っ張っていかなければならない。デザインの独創性と利便性を高めるとともに、グローバル超一流デザイナーを迎え入れるのに躊躇する必要はない」と檄を飛ばした。

 デザイン戦略会議は、サムスン電子の製品デザインの方向と戦略を決める最も重要な会議である(図表)。年2回開催され、2~3年後のサムスンのデザイン戦略を議論する。昨年10月は、サムスン電子・家電製品のデザインプロジェクトを担当するクリス・バングル氏(前BMW総括デザイナー)も同席し、家電デザインに対する今後の戦略をブリーフィングしたと伝えられる。

 サムスン電子の経営陣は、外装デザインだけでなく使用者環境(UI/User Interface)等ソフトウエアに関連するデザイン強化を指示している。テレビ枠が次第に薄くなりスマートフォンもディスプレー中心にデザインが造られ、外部デザインよりは画面の中のUIデザインにおける差別化と利便性が重要な要素として浮び上がっている。

 これに伴い、サムスン電子はUI関連デザイナーの人材拡充に焦点を当てており、関連する人材のヘッドハンティングにも一層力を入れる動きである。特にUIデザインの人材は、ソフトウエアとコンテンツに対する知識を必要としており、ソフトウエア人材を補強しようとするサムスン電子の戦略とも合致している。現在、無線事業部内の使用者経験(UX/User Experience)チームが中心となって、携帯電話のデザインにおけるパラダイム変化を織り込み、新たなデザイン戦略を練っている。昨年10月の戦略会議ではアップルとの特許訴訟を契機に、デザイン関連特許の競争力を一段階引き上げることが主要課題になった。これまで技術分野の特許取得に関心は高かったが、今はデザイン、UIなどの特許を取得することに関心を強めている。