◆急速なグローバル化に積極対応◆
サムスン電子は人材を育てる会社といわれながらも、実際には急速なグローバル化に対応するために、海外からの人材調達が積極的に行われている。外国からの人材調達には、優秀な外国人をヘッドハンティング、現地採用、海外に留学している韓国人、海外から韓国に留学している外国人、など主に4つのパターンがある。
ここにはトップの意向が強く反映されている。2011年7月の「先進製品比較展示会」(同業他社の先端製品とサムスンの製品を比較する隔年の検討会)において、李健熙会長は、「10年後のために、ソフト技術(ソフトウエア、デザイン、サービスなど)、S級人材(役員クラス)、特許戦略など、サムスンが抱える3大重要課題を今直ちに解決しなくてはいけない」と強調した。
海外から優秀な人材をヘッドハンティングする動きは、00年初めに国際採用担当役員(Global Recruiting Officer)を米国など先進国に常駐させ、現地に勤務している優秀な韓国人のスカウトに始まった。当初、在米韓国人がターゲットとなったのは、言葉の問題がないことや韓国の企業文化などに理解があることから、採用に失敗が少ないとの考えからであった。採用は、S (super/役員クラス)級、A(ace/部長クラス)級、H(high-potential/課長クラス)級に分けて管理されている。
昨年12月の役員人事で女性初の副社長に就任した沈女史の場合は、梨花女子大英文学科卒、米国ハーバード大で最高経営者課程を卒業後、多国籍企業P&Gで化粧品など消費財マーケティングを担当し、06年8月にサムスン電子に移籍した人物である。
最近ではデザイン経営を強化するために、世界3大自動車デザイナーのクリス・バングル氏と契約し、米国クアルコムで特許専門家(副社長)として活躍した韓国人弁護士を常務として招聘し、さらに世界1位半導体委託生産(foundry)企業の台湾のTSMC研究役員を経験した台湾国立精華大教授を副社長として迎え入れるなど、広がりを見せている。
現地採用についてみると、サムスンに入社したいと応募した外国人は、09年15カ国130人、10年32カ国400人、11年42カ国500人、12年上半期47カ国700人と毎年増加している。12年上半期の地域分布はアジア22カ国、ヨーロッパ11カ国、アフリカ6カ国、オセアニア、米国などである。応募者数では中国籍の200人が最も多く、米国とカナダが各々100人と続いている。また韓国人の海外留学生からの応募も、今年は過去最大の33カ国3000人に達した。国別には米国への留学生が1700人で最も多く、中国への留学生300人、オーストラリアとイギリスへの留学生が各々200人応募した。韓国人留学生が優秀であっても、外資系企業に就職するには、就労ビザの取得とその費用などが制約となっている。
サムスン電子は、海外留学生とは2~3学年の時から接触してデータベースを作り、優秀な人材をあらかじめ確保している。韓国人の最終出身校は米国、カナダなど北米出身が全体の65%で圧倒的に多い。アジア12カ国で17%、欧州15カ国で9%、オーストラリアなどオセアニア2カ国で9%である。さらに、韓国に留学している外国人の直接採用も増えている。これまで現地で外国人を採用し現地勤務としていたが、最近、サムスン電子は韓国に留学中の外国人(非韓国系)を対象に、大規模な公開採用を進めている。08年から外国人留学生を採用してきたサムスン電子は、今年も水原工場と器興工場に勤める人材として、電子工学、コンピュータ、機械工学、材料工学などの学科に所属する外国人留学生を選抜し、マーケティング分野では人文系出身者も採用する。韓国本社に勤務する外国人を現在の800人から、20年まで2000人に増やす計画である。
海外からS級外国人を採用したことから、外国人を役員として処遇することが10年頃から目立ち始めているものの、まだ緒に就いたばかりのため、サムスン電子の外国人役員(本社基準)は16人と全体のわずか1・6%にとどまっている(図表)。ちなみに、12年に韓国上場企業の役員総数は1万4862人で、このうち外国人役員は189人と全体の1・3%である。国籍別には日本人が68人と外国人役員の36%を占め、次いで米国人56人、インド人14人、フランス人11人の順となっている。