◆役員昇進に向けた上昇志向のエネルギーに◆
サムスン電子は、多様な人材を国内外から採用するに伴い、社員の能力評価基準を頻繁に変えてきた。1993年李健熙会長の新経営宣言後に導入されたときの人事評価は、市場開拓、製品開発力など売上第一であった。国際化時代の荒波を乗り越えるには、販売力に重きを置かざるを得なかったのだ。IMF危機の97年から収束する99年までは、売上よりも成果(利益)基準へと変わった。構造調整を通じてグループの存続は収益性にかかっていた。このとき年俸制が本格的に導入された。
2000年からはグループの成長基盤を作るために、売上に貢献する事業部への高い評価と外部からの優秀な人材を受け入れ易くするための特別な評価基準を設定することが直近の課題であった。サムスングループは01年にPS(profit sharing/利益配分)とストックオプション(05年廃止)に代表されるインセンティブ制度を導入した。
その後のサムスンの人材戦略は、グローバル企業として競争力向上のために、コア人材からさらに歩を進め、世界的に超一流の人材確保へと踏み込んでいく。S級(役員クラス)人材は、社長レベルの高給で迎え入れられた。03年7月、李健熙会長が天才経営論を提起したことに始まり、今でもその基調は続いている。
こうして今日のサムスン電子の人材評価にみる特徴は、創造的革新をもたらす人材に最高の評価基準を置き、併せて実績を重視した昇進人事となって表れている。11年12月の役員人事では、R&D部門からの新任役員が増え、重視しているソフトウエア部門からも多くの中堅幹部を役員に昇進させている。
サムスングループは、01年から各事業部別に年初に設定した目標を超過した利益の20%限度内で、職員個人年俸の最大50%までPS(利益配分)を実施している。PSは系列会社が1年稼いだ営業利益から、法人税・金融費用・資本費用を差し引いた後、20%程度を役職員に配分するものである(図表)。
10年以降の昇進人事が成果主義に軸足を移してきたことと並行して、利益配分は貢献した事業部と成果を上げた個人への報酬という形が明確になっている。
12年、サムスングループは最大3兆ウォンのPSを役職員に配分する。系列会社別ではサムスン電子に最も多いPSが支給される。サムスン電子の営業利益の約50%を出した無線事業部は、成果給限度の年俸50%に相当するPSが支給される見込みだ。
反対に実績が振るわなかったLCD事業部(12年4月分離)と生活家電事業部には、相対的に少ない額が分配される。
さらにサムスン電子は、12年6月に全職員の上位5%に相当するコア人材5000人を対象に、最低500万ウォンから最高1億ウォンのインセンティブを支給した。対象は課長、次長、部長級で役員にはこのインセンティブは支給されない。
今回のインセンティブは、国内外から採用した多様なコア人材の転職を防ぐための手段の一つとして、PSとは別に支給される。このインセンティブを受け取る社員は、口外しないという覚書を会社に提出する。
現在、サムスン電子の中でも無線事業部に所属し、しかもコア人材として評価されれば、年俸は軽く2倍に跳ね上がる。利益に多大な寄与をしている社員には手厚いリターンが保障される一方、評価されなかった社員が、人事部にその理由を聞きただす姿も時折見受けられる。しかし評価が低い社員であっても、サムスン電子に勤務するのは韓国社会のエリートであることに変わりなく、協力企業や中小企業に勤める社員との所得格差は歴然としている。課長、次長、部長への昇進の段階で完全に脱落していない限り、多少の不満は、役員まで昇進したいという上昇志向のエネルギーに転換されていく。