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2012/12/07

<Korea Watch>サムスン研究 第27回 加速する対中戦略④                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第27回 加速する対中戦略④

◆成長・収益の柱となる次世代事業の早期創出を◆

 対中戦略を加速しながらも、サムスン電子の中国における過去3年間の売上高は2009年23・8兆ウォン、10年24・3兆ウォン、11年23・1兆ウォンとほぼ横ばいで推移しでいる(図表①)。この間サムスン電子の売上高は大きく伸びていることから、全体に占める中国での売上げ比率は年々低下し、11年には14%まで落ちている。サムスン電子が今年発売した100㌦台という低価格帯のスマートフォン「ギャラクシーポケット」も、販売開始するや否や20㌦台のスマートフォンが中国企業により売り出された。中国企業はプレミアム製品も昨年半ばごろから生産しており、12年のスマートフォンの販売台数は2億台に達する見込みで、1位のサムスン電子(2億3000万台/計画)を激しく追撃している。

 フラットテレビの中国企業の追い上げはさらに激しい。中国企業ハイアール(海爾電器集団有限公司、10年売上高358億人民元)、ハイセンス(海信集団、10年売上高637億人民元)などは、サムスン電子よりも40%以上安い価格帯のカラーテレビを販売している。すでに中国カラーテレビ市場の60%以上を現地企業に奪われており、12年第1四半期のサムスン電子とLG電子のシェアは、金額基準で5・7%と2・1%と低迷している。

 こうした韓中激闘の帰結を象徴するのがエアコンである。12年6月、サムスン電子は12年間蘇州でエアコンを生産してきたが、最近3年間相当な損失を出したことから、工場稼働を中断したと伝えられた。過去5年間に外国企業による中国内のエアコン市場占有率は半減している。中国企業は3Dテレビなどの先端製品にも進出しており、プレミアム製品中心に販売をして収益を確保するというサムスンの対中基本戦略も、足元から脅威に晒されている。サムスン電子の製品化までのスピードが速いとはいえ、中国企業はサムスンが新製品を発表する直前に、コピー製品を販売してくるのが現実だ。

 中国企業の猛追に対抗するためにサムスン電子は、中国企業の超低価格製品の原価を徹底的に分析し、サムスン電子の製品にも新興国や中国製の部品を使うことで、品質をある程度維持しつつ原価をどこまで低減できるか、またリバースエンジニアリングといわれる中国製品を分解して部品・素材の価格を細かく比較分析するなど、中国製品に対抗できる低価格製品の開発に手を緩めていない。だが中国企業に対抗し得る低価格製品を投入したとしても、シェア回復にどこまで効果を収めるか、苦難の道は避けられそうにない。

 中国現地採用者による先端技術情報の持ち出しもあれば、中国の特許を侵害したという訴訟問題も起こる。よく言われる従業員の頻繁な転職、中国人の管理者クラスを中途採用しても低い定着率等々、サムスン電子の抱えている問題は山積している。

 しかし最大の課題は、第2のサムスンを軌道に乗せるために、サムスン電子の韓国内の生産体制との棲み分けが避けて通れないことである。サムスン電子が先端製品の生産からR&D、デザインまで中国に移転していくことは、韓国内で次に何を生産して雇用を維持していくか、という深刻な問題を引き起こす。

 このため中国に第2のサムスン建設の成功は、韓国内に20年に向けての5大有望事業が、順調に立ち上がるかどうかにかかっている。韓国内で半導体や携帯電話の生産に代わる有機EL(AMOLED)、燃料電池(電気自動車)、バイオ医療などの新規事業を、ここ数年のうちに新たな収益源として育てていく必要がある。韓国内で成長・収益の柱になる次世代事業が早期に創出されない限り、第2のサムスン建設という構想は、韓国の産業空洞化をもたらす元凶となる。今年の大学生の就職率が60%に達していない中での企業の海外展開は、韓国社会の不安要因として強い反発を招くことになろう。