◆現地責任者に権限委譲し経営体制強化◆
サムスン電子の五輪マーケティングは、インドでも効果的に作用した。2008年の北京五輪で、サムスンが支援していた個人種目、射撃男子エアライフルで、アビナブ・ビンドラ選手が、インド史上初の金メダルを獲得した。ロンドン五輪においても、主に射撃、ボクシング、アーチェリーのインド代表選手たちにスポーツ奨学プログラムを提供し、印スポーツ人材の発掘とサムスン認知度の向上を両立させている。五輪マーケティングはインド、アフリカ、南米などの新興市場で製品販売の促進に直接的な効果をもたらしているのが実態だ。
今や家電製品部門では、サムスン電子とLG電子がインド市場で1、2位を争い、日本や米国などその他を圧倒している。サムスン電子とLG電子は、2000年代中頃から本格的に印家電市場に参入し、現在は冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、エアコン、テレビ、携帯電話など主要電子製品で各々30%内外の高いシェアを維持している。
冷蔵庫とブラウン管テレビなど一般家電ではLG電子が、サムスン電子よりやや先行している。LG電子がインドで販売している冷蔵庫は、インド人の80%が菜食主義者という点を考慮し、冷蔵庫に野菜室を設けると共に、夏には摂氏40度を越える暑い天候に着目して、冷蔵庫に化粧品と薬品を置くスペースを作るなど、典型的な現地化製品を展開している。
インドではフラットテレビの売れ行きが目立ち始めているとはいえ、今なおブラウン管テレビの方がより多く売れている。人口12億人の印テレビ市場は、フラットテレビとブラウン管テレビを合わせて年間1500万台以上販売される巨大市場であるが、1000万台がブラウン管テレビで全体の60%を越える。ブラウン管テレビは1台当たり10万~20万ウォンと低価格であるが、数量が大きいだけに収益源として手放せない市場を形成している。
11年、サムスン電子のインド法人の売り上げは40億㌦で、同じ期間LG電子の35億㌦を上回った。サムスン電子の好調を支えたのは、携帯電話市場での成功だ。電力事情を考慮して太陽熱充電方式の「Solar Guru携帯電話」で人気を得たのを皮切りに、サムスン電子は、印市場攻略に低価格スマートフォンを数多く品揃えし、幅広い消費者層を獲得していった。
サムスン電子は、150㌦台のスマートフォンを販売することで、激しいシェア競争が繰り広げられているインド市場でも先頭を走っている。11年にスマートフォンを900万台(シェア46・5%)販売し、12年には前年より2倍以上の1800万~2000万台の販売を見込んでいる。サムスン電子は、スマートフォンの販売急増により、インド市場でもノキアの牙城を崩し始めている(図表)。11年11月のインド スマートフォンの市場占有率でサムスン電子が38%を占め、インド市場で長い間トップの座を占めていたノキアを初めて抜いて1位に躍進した。今年、サムスン電子はインドスマートフォン市場でシェア60%を目標にしており、年間でトップに立つ可能性大である。サムスン電子は、インドで2012年に発売する45機種の新しい携帯電話モデル中、13~14機種でスマートフォンを投入する予定である。
インドなどのポテンシャルの高い新興国市場に対しては、サムスン電子は社長級のカントリーマネジャーを派遣しており、現地責任者に権限を委譲した経営体制を強化している。このことが他の地域同様、インド人の現地採用に拍車を掛けている。
サムスン電子全体の研究開発(R&D)スタッフは約5万人といわれるが、このうちインド人が6000人を突破した。サムスン電子印法人はバンガロールソフトウエア研究所(SISO)に2800人、生産拠点であるノイダソフトウエアセンター(SISC)に800人ほどのR&Dスタッフを含む合計6000人以上のエンジニアが、インド向け製品開発はもちろん、全世界市場を狙った製品および技術開発に携わっている。サムスン電子は13年もソフトウエア人材を中心に、インド人の採用を増やす計画であり、今後その比重がより一層高まる見通しである。