◆李会長が陣頭指揮するコントロールタワー◆
サムスングループの参謀組織として発足した会長秘書室は、その後構造調整本部、戦略企画室(2008年6月解体)へと名称を変えながら、10年11月、約2年半の空白を経て未来戦略室として復活した。ここがサムスングループのコントロールタワーだ。未来戦略室は土曜日も日曜日も休まない、といわれている。
戦略企画室の時代までは、李会長の意向を反映し、サムスン各系列会社の上に君臨する組織と認識されていた。このため李一族の蓄財を優先しているのではないか、という否定的なイメージが韓国社会につきまとった。
新生の未来戦略室は、サムスングループの次元で、21世紀の急変する経営環境に対応して未来新事業を育成する一方、グループ経営のシナジー効果を高める役割を受け持つ。
未来戦略室は、李会長、各系列会社CEOと三角編隊の一翼を担い、グループをひとつの方向に束ね、ここには、電子を中心とする各社の俊英が集められ、彼らの中からグループの専門経営者も多く育つ。
未来戦略室は6つのチームで構成されている(図表)。
経営革新支援チーム(財務担当)、戦略1チーム(サムスン電子と電子関連系列会社の業務調整・事業支援の担当)、戦略2チーム(電子系列会社を除いた金融・化学サービス関連企業の業務支援を担当)、コミュニケーションチーム(広報と企画を担当)、要人支援チーム(系列会社の要人をグループ次元で調整)、経営診断チーム(監査業務を担当)である。これら6チームに加え、投資審議、ブランド管理、人事委員会を統合し、10年11月の発足当初では約150人のスタッフで構成された。
ここ1年数カ月で目立った活動を点検すると、サムスンテックワンの内部不正をただし清廉な組織文化の構築やサムスン主要系列会社の経営診断、HDD(ハードディスクドライブ)事業の売却、資材購買代行事業からの撤収、製パン製菓事業の撤収、医療機器分野などへのM&A、米国アップルとのグローバル特許訴訟など多様な問題に対処してきた。
未来戦略室の上部組織として、副会長(現在6名)を座長として運営されているのが社長団協議会(社長40名・平均年齢は55・8歳、10年時点)であり、サムスングループの最高意思決定機構である。
社長団協議会は、毎週水曜日の午前に開催され、まず著名人を招待しての講義(今年のテーマの例=国際情勢と北朝鮮リスク、日本企業の6重苦、登山家の極限の話、未来型リーダーシップなど)を聴いた後、サムスングループ全体の懸案事項について審議を行い、グループ内の事業調整(重複投資の回避)を決定するなど、サムスングループの人事と財務を実質的に60%掌握している。
グループ総帥の李会長(70歳)が経営の前面に出ている現在、社長団協議会と未来戦略室は、10年後の中核事業を育てていくことを目標にしながらも、その最終目的は、李会長の体制を一層強固にして世界の超一流企業に押し上げるとともに、3代目李在鎔社長の後継作業を軟着陸させていく役割を担っているのではないだろうか。
サムスングループの司令塔の存在と一般的な日本企業の組織を比較すると、歴然とした違いがある。
わが国の経営企画室は、各事業部からあがってくる計画を積み上げ、調整する機能しか果たしていない。
全社の戦略を立てる機能がどこにも見当たらない。さらに90年以降、子会社化・分社化した企業は独立性を高め、本社と密接に関連している事業領域であっても、コントロールが全く利かない。わが国企業がグローバル競争で戦っていくには、全社一丸となった戦略づくりを取り戻さなければならない。