◆李健熙会長に対し相続株式の返還求め相次ぎ提訴◆
昔習った経営学の教科書では、経営の近代化は所有と経営の分離にある、と書かれていた記憶がある。
株式会社の所有と経営の分離であれば、会社を所有するのが株主で、会社の経営にあたるのが株主総会で選任された取締役、という仕組みである。
所有と経営が分離されていない会社は、近代化されていない企業ということになる。
サムスングループは1996年以来、サムスンカードがサムスンエバーランドに25・6%出資、サムスンエバーランドがサムスン生命に13・3%出資、サムスン生命がサムスン電子に7・2%出資、サムスン電子がサムスンカードに35・3%出資、という循環型の持ち合い構造であった(図表①)。
金融会社は非金融会社の持分を5%以上所有できないという金融産業構造改善法が施行され、昨年から、サムスンカードがサムスンエバーランドの持分25・6%を5%以下となるまで1兆ウォン以上(約700億円)処分してきた。
なお、サムスンエバーランドは63年設立された会社で、社員数約4000名(10年度)、主な事業としては、建設・不動産事業、食品・サービス事業、リゾート事業の3分野である。
現在のサムスングループは、循環型の資本構造からサムスンエバーランドを頂点とする垂直構造に変わった。
サムスンエバーランド持分比率は、李在鎔社長25・1%、李富眞社長および李敍顕副社長各8・37%、李健熙会長3・72%など李一族が46%、サムスングループが40%の大株主となっている(図表②)。
この結果、サムスンエバーランドの最大株主であるサムスン電子の李在鎔社長(25・1%)は、自動的にサムスングループの頂点に立つことができる。
12年2月、サムスングループの支配体制にひびが入る財産権争いが発生した。故・李秉喆サムスングループ創業者の長男李孟熙(81歳)氏が、三男の李健熙(70歳)サムスン電子会長を相手に7140億ウォン(約500億円)の相続株式の返還訴訟を起した。
さらに、創業者の次女李淑姫(77歳)氏も李健熙サムスン電子会長を相手取り、同様の訴訟を起こした。
今回の遺産相続問題は、長男李孟熙氏と次女李淑姫氏の個人の問題であり、サムスングループとCJグループ(李孟熙氏の長男・李在賢会長、食品・エンターテインメント事業など)との全面訴訟に発展する可能性は低い。
一般的に長男が遺産相続する韓国儒教社会では、創業者に嫌われたためにサムスンを相続できなかった悲運の長男と、かたや三男でありながら巨大な財閥を牽引している姿から、今回の争いは、朝鮮王朝時代の王位継承をめぐる骨肉の争いを想起させる。
最悪のシナリオは、李健熙会長が敗訴したときである。李孟熙氏・李淑姫氏の要求どおり、両者を合わせたサムスン生命の1047万株を戻すことになれば、サムスン生命の最大株主は、李健熙会長(持分率20・7%)からサムスンエバーランドに代わる。
その場合、金融会社であるサムスン生命は、金融業を営まない会社(サムスン電子)を支配できないという金融産業構造改善法に再び抵触し、サムスン電子の保有株式(7・21%)を5%以下まで売却しなければならない。
サムスン生命が保有しているサムスン電子の株を一部売却することになれば、サムスンエバーランド→サムスン生命→サムスン電子→サムスンカードというサムスンエバーランドを頂点とする李一族の支配構造に影響を及ぼす。このことはサムスン電子社長・李在鎔氏が、やがてサムスングループの会長として全体を束ねるとき、総帥としての支配力が弱まることを意味する。