◆ソフト開発が他社との差別かに不可欠◆
韓国統計庁が発表した2012年2月の失業率は4・2%で、前年同月比0・3ポイント低下したものの、失業者は1年振りに100万人を越え104万2000人に達した。特に無職の20代が34万6000人と過去最高に達した。韓国は大学進学率が高いうえ、大卒者は一流企業を強く選好するため、雇用の需給にミスマッチが起こり易く、大卒者の就職難がたびたび社会問題として浮上している。
サムスングループは、国際競争力を強化するために生産拠点を海外に移転しながらも、同時に政府の重要課題となっている韓国内の雇用拡大を図らなければならない、という二律背反のテーマに直面している。
韓国における海外移転の現況について携帯電話を例にみると、サムスン電子とLG電子などの携帯電話の海外生産台数は、国内生産を追い越しており、韓国においても産業空洞化が憂慮される事態に直面している。
情報通信産業振興院(NIPA)によれば、09年の携帯電話メーカー全体の出荷台数は3億5480万台で、前年の3億180万台に比べて17・6%増加した。このうち、海外生産による出荷台数は08年の1億3910万台から09年には2億710万台と48・9%急増した。これに対して韓国内の出荷台数は、同期間に1億6270万台から1億4770万台へと9・2%減少した。サムスン電子が海外生産拠点を中国、ベトナム、インド、ブラジルに、LG電子がインド、ブラジルに現地法人を設置し、海外シフトは今も続いている。
こうした中、11年1月3日の新年祝賀会で、李健熙会長は、5大有望事業(自動車用電池、LED、バイオ・医療など)の開発を加速するとともに、20年までに4万5000人の雇用を創り出すという目標を掲げた。そして今年1月2日の新年祝賀会でも李健熙会長は、「投資もさらに積極化し研究開発も増やすとともに、若い人々が希望を持つように、多くの雇用創出に努力する」と発言した。
事実、韓国金融監督院の報告によると、サムスン電子の国内雇用は、10年から11年にかけて6311人純増しており、人数でトップ、増加率で6・6%であった(図表①)。08年からの過去4年間でみても、サムスン電子の社員数は、8万4462人から10万1970人へと28・5%増加している。
海外展開の加速と国内工場の生産合理化を考慮すれば、既存事業に関わる従業員数の減少は避けられない。
サムスン電子の場合、既存事業の雇用の減少分は、新規事業の雇用創出である程度相殺されているものの、雇用の純増には別の要因がある。
サムスン電子は中期戦略目標を達成するために、モノづくりからソフト開発(ソフトウェア・デザイン)スタッフの増強を最重視している(図表②)。事業構造はモノづくりを基盤としながらも、ソフト開発に新たな価値創造を託している。サムスン電子が10%前後の売上高純利益率をあげているとはいえ、ソフト技術を有するアップルやグーグルは20%を越す売上高純利益率を誇っている。
デザインについては05年4月、李健熙会長がミラノでデザイン戦略会議を開催し、このとき「まだサムスンのデザインは1・5流水準」と指摘し、これを契機に製品デザインにも果敢な投資へと転じている。
李健熙会長はまた昨年7月に、水原で開催された先進製品比較展示会(隔年に開催されるサムスン電子の製品と先進国企業の製品を比較検討する社内の展示会)で「ソフト技術・S級人材(系列会社の社長年俸に匹敵する超一流人材で最低常務以上の待遇)・特許を確保しなさい」と指示したのに続き、翌月の携帯電話・TVなどの完成品部門の社長団会議において「ソフトウェア競争力強化のためにM&A等多様な方法を講じなさい」と注文した。
サムスン電子は、ハード技術で他社と明確な製品差別化を図り、同時にソフト開発を徹底することで、真に超一流企業となる道を邁進している。サムスン電子は、製品に加わるソフト技術が他社との差別化に不可欠であり、これが企業のブランド価値を高める原動力とみている。