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2013/01/11

<Korea Watch>サムスン研究 第30回 深耕する中南米市場                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第30回 深耕する中南米市場

◆社員のモチベーション高め品質向上◆

 サムスン電子の中南米市場開拓は、1986年にブラジルを販売市場として進出したことに始まる。88年にメキシコ・ティファナ(米国と国境を接する都市)でテレビとカラーモニター、モバイル機器などを生産したときから本格化したが、狙いはあくまで北米市場への進出であった。94年1月、米国、カナダ、メキシコの3国で結ばれた北米自由貿易協定(NAFTA)が発効されると、メキシコの生産拠点は、北米向けの拠点として重要性を増していく。2000年代初めになると、サムスン電子メキシコ生産法人は、北米テレビ市場攻略の前哨基地であると同時に、全世界のテレビ市場を開拓していく要衝地として発展していく。

 メキシコが生産拠点としてブラジルより先行する中、サムスン電子は、95年にアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジルの4カ国が調印し結成した南米南部共同市場(メスコスール)発足を受けて、ブラジルに中南米総括を設置し、中南米市場を開拓していく戦略拠点として位置づける原型を作り上げていった。その後、グアテマラ、エクアドル、コスタリカ、ドミニカなどに地域事務所を開設(01年)、ジャマイカ、プエルトリコ、キューバ、トリニダード・トバコなどに地域事務所を開設(2002年)と相次ぎ、中南米全体の製造・販売・流通ネットワークが確立されていった(図表①)。04年以降になると、ブラジルにR&D拠点(マナウスとカンパナス)を設置し、中南米市場にサムスン製品を売り込む時代から、現地化製品とプレミアム製品を両軸とした深耕の時代へと展開していく(図表②)。

 崔志成副会長(現在、未来戦略室室長)は、11年5月にブラジル、メキシコ、アルゼンチンなど中南米3カ国を視察した後、金浦空港で「先進国市場は停滞しているが、アフリカと中南米市場は高速成長が予想される」と語った。続けて崔副会長は「10年中南米市場の売り上げが65億㌦であり、11年は85億㌦、12年には100億㌦までいく」とし、「先進国市場が難しければ新興市場を強化しなければならない」と強調した。

 サムスン電子がここ2~3年、中南米市場で飛躍した要因は、現地組み立て生産と多様なラインナップを揃えた販売力にある。HP、レノボなどグローバルPCブランドが先行していたブラジル市場で、サムスン電子は、自らの生産拠点を通じて現地ニーズに速かに対応し多様な品揃えを提供している。12年8月現在、サムスン電子は中南米全体のノートブック市場で13カ月連続1位を記録している。

 中南米での成功は、製品戦略やサッカー関連のマーケティングが奏功した面もあるが、サムスン電子メキシコ生産法人では、テレビ生産方式を従来のベルトコンベヤーから製品の品質と価格競争力を高めるために、07年に「セル生産方式(少ない人員で組み立て・加工から検査作業まで行う生産方式)」を導入した。それまでサムスン電子は、高い離職率に悩まされ、熟練した従業員の不足が不良品率の高さ(低生産性)を招くという深刻な問題に直面していた。「セル生産方式」を取り入れてから、従業員の責任が明確になったことで、品質の向上、人材の確保、需要に応じた生産体制など大きな成果を上げている。メキシコ生産法人では、目標生産量を超過達成した従業員には成果給(年俸の30~50%のインセンティブ)を提供している。病院、子供の家、福祉施設の充実などを通じて従業員のモチベーションを高めている。

 メキシコの生産拠点が、北米国市場のためのサムスン電子の3Dテレビ、スマートテレビなどプレミアム製品群をすべて生産しているだけでなく、メキシコ国内、ブラジル、アルゼンチンなど中南米にも供給している。11年現在、従業員数が3100人に増えながら、駐在員はわずか14人と少ないことにも、中南米事業の成功を物語っている。