◆「ヒトづくり」にみる違いと格差◆
これまで日本企業と質疑応答を繰り返す中で、日本企業がサムスンの「ヒトづくり」「モノづくり」「組織づくり」「ブランドづくり」「危機意識づくり」のどこに強い関心を抱いているかを知る機会となった。まず「ヒトづくり」に関してどのような質問があり、それにどのように答えたのか。
質問1 グローバル人材を養成する地域専門家制度はどのようなものでしょうか?
①1991年に始まったサムスン地域専門家制度は、これまでに4400人の地域専門家を養成した。2012年は50カ国で285人が地域専門家として活動中であり、その約8割が中東、アフリカ、中国、インドなど新興国へ派遣されている。
②各事業部の中から基本的に業績優秀な社員が選抜される。選抜された後、サムスン外国語生活館などの語学センター(500人が合宿できる施設)で10週間の合宿教育が行われる。語学講師は現地人である。
③地域専門家は1年間業務を離れて現地で生活する。会社からは資金のほかには、パソコンとデジカメが渡されるだけで、あとは独力で現地生活を全うしなければならない。地域専門家からの報告は、現在世界700都市以上のデータベースとなっており、人脈やマーケティング情報にも活用されている。なお13年度からは、李健熙会長の指示により、女性の比率目標を30%まで引き上げ、またアフリカのスワヒリ語など1年間で習得が難しい特殊言語に対しては、1年延長して2年間にする方針である。
質問2 役員クラスへの教育は、誰がどのように実施しているのでしょうか?
① 役員クラスへの教育は、人力開発院とサムスン経済研究所の専門スタッフが担当している。一般従業員を対象とした教育担当とは別の専門スタッフから構成されている。基本的にはサムスングループ内の担当者が役員教育を実施しているが、カリキュラムの作成においては、韓国の大学教授や米国の人材育成コンサルタントなどからの最新情報とアドバイスを受けている。
② ただし、韓国の教授や外国コンサルタントが作成したカリキュラムは、サムスンの社風と微妙に合わないため、人力開発院とサムスン経済研究所で修正して作り上げている。最近、技術系の役員が増えてきたために、企業倫理、経営学、会計学、マーケティング戦略など社会科学系のカリキュラムが増えている。なお、役員に対してもサムスンの基本経営理念から再教育される。
質問3サムスンにおける女性の登用・活用はどのような状況でしょうか?
①サムスングループの女性役員は、李会長の長女・李富真ホテル新羅社長と次女・李敍顕第一毛織副社長を含む合計34人である(11年11月末現在)。なお全社員に占める女性の比率は09年33%、10年32%、11年9月現在31%と減少傾向にある。
②サムスンは、国営企業および民営化された国営企業を除いた韓国内30大グループで、最も多くの女性役員を輩出している。10年12月の人事で女性役員7名誕生したが、まだ全役員に占める割合は2%未満である。
③11年12月の定期役員人事で、女性副社長が1人誕生した。シム・スオク副社長は、梨花女子大英文学科を卒業し、米国ハーバード大で最高経営者課程を修了した後、多国籍企業P&Gで化粧品など消費財マーケティングを担当し、06年8月からサムスン電子に転職した才女である。
質問4離職率、勤続年数(平均)はどのような状況なのでしょうか?
①新入社員の離職率は3年で30%といわれており、日本企業に比べて高い。サムスン電子社員の平均勤続年数は8年であり、男性が9・1年、女性が男性より3・4年短い5・7年である(12年現在)。これは1人当り平均年俸額(4710万ウォン)にも影響を及ぼしており、女性職員の年俸は、男性(5390万ウォン)の60%水準3250万ウォンである。
②新入社員の離職理由には、経営体質に合わないという理由もあるが、激務(事業部内競争、事業部間競争、山積みの課題へのストレスなど)が、将来を確実に保証するものではないという現実がある。激しい社内の競争が、友人関係を難しくするケースも一部生じている。
質問5サムスン電子の就職人気ランキングは?
①12年6月、韓国経済新聞が実施した全国大学生1041人を対象に「仕事をしたい企業」という質問の結果、トップはサムスン電子の9・4%であった。その理由としては、満足な給与と透明で公平な補償制(28・4%)がトップに挙げられた。
②次いで2位国民銀行(8・5%)、大韓航空(6・7%)、CJ第一製糖(3・4%)、韓国電力公社(2・8%)、KT(2・6%)、サムスンモバイルディスプレイ(2・4%)、柳韓キンバリー(2・4%)、KT&G(2・4%)、NHN(2.3%)の順となっている。
③サムスン電子が人気No1であっても、韓国の大企業に就職する新入社員のレベルでは必ずしもトップではない。SオイルはTOEICで平均914点と最も高く、SKネットワークス(879点)、ポスコ(877点)、ウリ銀行(850点)と続き、サムスン電子と現代自動車はそれぞれ841点と823点である。