◆「危機意識づくり」―危機管理による緊張感―◆
質問1 危機意識づくりに李会長はどのような役割ですか?
①1993年のフランクフルトでの新経営宣言では「妻と子供以外はみな変えなさい」と発言し、2005年のミラノデザイン戦略会議では「サムスンのデザインは1・5流」と指摘するなど、李健熙会長の言葉が社内外に発信され危機意識を浸透させてきた。
②李会長は12年新年の挨拶で、「サムスンの未来は、新事業・新製品・新技術にかかっている。既存の枠組みをすべて打ち破って、ただ新しいものだけを考えなさい」と語り、「現在サムスンを代表する製品は10年内に消えて、そこに新しい事業が生まれなければならない」と訴えた。
③12年4月、建設・重工業系列会社社長団の会議に出席した李会長は、「国内に安住せずにグローバル企業に高めなければならない」と注文した。サムスングループを代表するサムスン電子が、過去最高の売り上げと利益を記録しているのに対して、建設・重工業系列会社はなぜこれぐらいの成績を出すことができないか」と叱責したと伝えられる。
④最近、李会長はヨーロッパを視察した後、どんな状況でも競争力を失わないように「第2の新経営」に準ずる革新的変化を注文している。
日本の家電業界が低迷している中、一方で李会長は「外見はサムスンの躍進が目立つけれども、中の部品と素材はまだ日本で習うことが多い。多くの時間と努力が必要だ」と社員に謙虚さを求め引き締めている。
⑤李会長だけでなくサムスン未来戦略室と大多数の系列会社役員の出勤時間が、12年3月から午前6時40分に定例化した。これは欧州経済危機への対応である。アップルとのデザイン特許敗訴後の8月28日の出勤からは、午前6時20分と20分繰り上げている。
こうした動きも、グローバル企業として胡坐をかくことは許されず、社内に緊張感を漂わせている。
質問2 欧州経済危機にサムスンはどのように対応?
①最近では欧州経済危機に対する指示が、危機管理の例に挙げられる。サムスン電子は、欧州向けの製品輸出が最大であることから、ドルベースで調達した部品・素材を組み立てた後、販売はユーロで受け取ることになる。ユーロが下落すれば利幅が縮小し、ユーロが暴落する事態になれば赤字輸出を覚悟しなければならない。
②12年6月下旬、欧州経済危機に対して、1ユーロ=1・2㌦に下落した場合、事業部別の損益がどの程度影響受けるのかを把握したうえで、李会長は1・2㌦でも生き残れる対策を各事業部に指示した。
1ユーロ=1・2㌦まで下落した場合、シナリオ経営の段階から、すべての事業部に悪い影響が出てくる事態に突入するという非常経営が想定された。
1ユーロ=1・3㌦を割った時点では、悪化(worse)と最悪(worst)のシナリオ経営を準備していた。
③サムスン電子は、例年より1カ月早く13年の経営計画策定に着手しており、これも危機意識の表れである。
質問3 大規模投資を続けてきたサムスンに見直しは?
① サムスン電子は今年の半ば以降、設備投資の大幅な見直しを実施している。サムスン電子の設備投資額は、09年5兆2300億ウォン、10年21兆6100億ウォン、11年22兆6700億ウォンと大幅増で推移してきたが、今年第3四半期までの累積額が18兆4800億ウォンと抑制にシフトしている。
② 部門別では半導体投資が、価格競争に打ち勝つための設備投資を継続してきたが、需要が世界的に萎縮した状況にあるため、大幅に減少している(図表)。
③ LCD部門は、赤字体質からの脱却を目指した設備改善に注力した投資である。
第3四半期までにLCD事業ラインの設備投資に合計3兆6500億ウォンが投じられた。なお、LCD事業部は12年4月にサムスン電子から離れサムスンディスプレイに編入されたが、設備改善と製品群の見直しの効果により、第2四半期から3000億ウォンの黒字に転換している。
④12年第4四半期も設備投資には慎重になると見込まれ、13年も今年より投資が減少するという観測が出始めている。