◆3カ国発の企業が相互に相手国で貿易◆
これまで日韓中3カ国の相互補完と競争を貿易統計で見てきたが、それだけでは片手落ちだ。貿易は国同士の取引だが、実際の取引は、3カ国発の企業が相互に相手国で貿易を担っている割合が高い。日本企業を例にすると、中国に直接投資して単独・合弁の現地法人を作り、①産業財を日本から輸入する・中国産の産業財を使うなどして最終財を生産し国内販売と世界への輸出をする・日本へお持ち帰り輸出をする(家電・デジカメ・食品・衣料)、②日本と中国との輸出入や国内外販売に従事する(商社)、③日本産・韓国産・中国産を含め世界中の最終財を中国内で販売する(卸・小売)。
韓国企業の中国の位置づけも日本とほぼ同様だろう。中国企業だけが、中国と日本や韓国との輸出入や、中国での最終財の生産販売、世界への輸出入をしているのではない。3カ国の企業が中国というビジネスの舞台で、日本・韓国だけでなく世界中の国々との貿易や生産・販売で相互補完と競争をしているのだ。
図表4で3カ国の対外直接投資残高を示した。日本の直接投資残高が突出して大きく、米国やEUの先進国への投資比重が高い。2008年まで、先進市場対応の自動車、家電などの最終財の現地生産・販売に重点をおいていたからだ。近年は中国とASEANへの投資を加速させ、産業財を日本から輸入・現地生産して最終財を造り、国内販売と輸出をしている。売上・利益とも、成長著しいアジア依存を高め、販売市場と世界への生産・輸出基地の両方で中国の他にASEAN重視も強めている。投資収益率は全世界平均で6・1%(11年)、中国・ASEANからは一段と高い収益率が推定される。
直接投資は、収益ばかりでなく、自国と相手国の目に見えない種々の利益にも貢献する。相手国に土着し、市場への一段と深い浸透を実現し、産業集積をして多くの雇用を生みだし、現地従業員の能力開発、技術を移転して産業構造の高度化にも協力するからだ。これが、相手国の日本への信頼感・「日本ブランド」の高い評価を生む。在中国の日系企業(単独と合弁)の経営実態の分析がある。ジェトロの『在中国日系企業の経営実態調査報告書』(13年)によると、日系企業の製造業の売上高に占める輸出の割合が40%とある。中でも、繊維・アパレル(75%)、電機・家電(60%)、精密・デジカメ(54%)での輸出比率が中国国内販売よりも高い。
一方では輸送機・自動車(20%)、一般機械(29%)、化学・薬品(30%)は国内での販売が中心だ。卸・小売業は国内販売がほとんどを占める。日系企業の数は2万7000社、現地での雇用は600万人近い。繰り返すが、日系企業が日本や韓国から中間財を輸入して、中国市場での最終財の生産・販売はもとより、日本・米国・EUなどの先進国への輸出の大きな部分を支えている。
韓国の対外直接投資は、中国に集中している。日本の投資残高の55%の550億㌦だ。中国での韓国系企業は、日系企業と同様に、輸出比率が高い企業(電機やアパレル)、国内販売比率が高い企業(自動車や化粧品)、国内販売中心企業(小売)の3分類だ。中国とのグロスの貿易額(輸出入)で日韓を比較すると(図表5)、10~11年の累計で、両国にとって中国が№1の貿易相手国であり、日本100対韓国74で、韓国が一段と貿易重視で、日本を追い上げていることが確認できる。
中国は圧倒的に貿易重視だ。日本や韓国で製造業を営む直接投資はほんの僅か。ASEANではベトナム、ミヤンマーなどのASEANの後発国で重点的に直接投資を行ってきたが、金額は韓国の半分だ。香港・バージン諸島・ケイマン諸島への投資が全体の76%を占める。中身の詳細は不明だが、投資ファンド会社が、日・米・EUなどの先進国の優良グローバル企業に投資していると推察される。投資収益率は中国5・8%、香港9・6%で、日本(6・1%)、ドイツ(6・9%)、フランス(5・8%)と同等かそれ以上である。