◆国家、自国製、企業・商品ブランドを磨き続けよ◆
シリーズの最後に、今後の日韓中3カ国間の、相互補完と競争の今後を展望しておきたい。長期的には、補完関係が弱まり、競争関係が強まることだろう。
現状のように、日韓中で技術格差があり、日本の技術優位性がとくに産業財の比較優位な付加価値に反映されているのだから、韓国と中国の対日技術依存は今後とも続くだろう。それなしには、世界市場での最終財の競争優位な技術水準が満たされないからである。韓中両国が自国で技術力を高め、日本のように分厚く、産業財の100年企業を育てることができれば、自国発の付加価値率を高めて対日赤字が減るだろう。しかしそれが容易でないことが、過去数10年間、日本への不満を高めつつも、対日依存を続けてきた事実で十分検証されている。日本は、技術力の高さが、通商での差別優位性だから、今後もますます技術力を高めようとする。一方では日本も、半導体や自動車部品など韓国発の産業財を使った最終財を世界で販売している。長期的に、韓中の技術革新が進み、日本はチャイナ+One戦略でASEANとの補完関係を深めるので、3カ国間での産業財の相互依存度は低くなるだろう。
最終商品市場でのグローバル寡占を目指す販売競争、日韓中の最終財(例えば、日本で造る日本製、世界で日本が造る日本製)のグローバルな主導権を争う販売競争は益々激しくなるだろう。そして、3カ国での逆転・再逆転が頻繁に起きるだろう。多くの商品分野で技術能力やマーケティング能力のレベルが接近している。
市場での販売競争力は、モノの物理的品質は当たり前で、その他に、それを超えた付加価値=顧客価値、顧客の情緒的なライフスタイルに応えるデザインなどの見映えや使い応えのあるソフト価値、買いたくなるような広告や販促の支援、スピーディーな顧客対応など、つまり、顧客価値と価格の最適なトレードオフを提供するマーケティング能力で構成される。近年は、韓国企業が大躍進して、先進国と新興国の両方の市場で、日本のライバルを抜き去る(デジタル家電)か、追撃中(自動車)である。新興国市場では、中国企業が韓国勢を追い上げて橋頭堡を築いている。
日韓中の競争力の優劣のポイントは、相互依存を弱めながら、最終財の消費市場で「自国発企業が創造する付加価値の高さと価格のトレードオフ」だろう。日本は中国以外へ投資を増やし、韓国はウォン高・国内消費の低迷を受け中国・ASEANなどで日本を追撃し、中国は海外有力企業への投資を加速させるだろう。
最終財の競争の当事者は、勿論、自国発の企業だ。企業活動の価値創造力と競争力の成果であり支えである「企業・商品ブランド」の受容性が、政経分離で政冷経熱が世界の潮流だが、残念ながら日中韓3カ国間では、政治や国民感情に大きく左右される。その現実の中で、企業が取り組むべき挑戦課題を提案したい。
BBCの世界世論調査によると、日本は毎年世界で最も「好ましい・好感が持てる」国である。しかし、韓国と中国の2カ国だけが「好ましくない・好感が持てない」国として、日本を評価する。日本で造る日本製・各国で日本企業が現地で造る日本製、いずれも中国と韓国以外では「好ましい・買いたい商品」と強くポジティブ評価される。しかし、韓国と中国では「好ましくない・買いたくない商品」とネガティブ評価されることが多く、国家ブランドの評価と自国製ブランドの評価が、政治のコンフリクトによって、企業・商品ブランドの評価を左右することがある。
「トヨタ」という企業ブランド、「カムリ」という商品ブランドは、韓国と中国でも、「好ましいブランド・買いたいブランド」のポジティブ評価を受けている。つまり、国家ブランドや自国製ブランドの評価がネガティブでも、企業・商品ブランドの価値を磨き続け、顧客の信頼を高めていけば、トヨタ=日本の連想で一時的な不買に巻き込まれても、中長期的には、ポジティブな好意や購入が得られる。
この教訓は、相互補完と競争関係にある日韓中3カ国の全ての企業や商品に当てはまる。日本では、韓国への好意度・好感度はポジティブでかなり高いが、中国への評価は、今は大きくマイナスだ。
国家ブランドと自国製ブランドの評価は、ともに、各国の国民の「自国への愛国心」と「相手国へのライバル心(時として敵愾心)」のトレードオフに左右される。政治的なコンフリクトで、愛国心と同時に敵愾心が強くなると、相手国の国家ブランドと相手国製ブランド評価がネガティブに振れる。それを防ぐのが政治の役割だ。
しかし、どんな状況でも企業・商品ブランドを磨き続けるという態度と行動で、相互補完と競争の両立を、日韓中の企業が一段と強く追い求めてもらいたい。