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2013/06/21

<Korea Watch>経済・経営コラム 第60回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北④                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第60回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北④ 

◆シャープは単独で存続できるだろうか◆

 シャープは2011年と12年の累計で8260億円の赤字を計上した。パナソニックの3分の1の売上規模だから、赤字のダメージが一段と大きい。液晶にかけてきただけに、液晶ビジネスでの敗北は取り返しがつかないほど深刻だ。世界最新鋭の堺工場や世界の亀山工場の二大工場を擁しながら、液晶テレビもパネルの外販も世界のリーダーになれなかったし、売れば売るほど赤字が増えた。液晶テレビ「アクオス」は、金の卵を産むグローバルブランドになれなかったのだ。日本ではトップ・シェアを維持したが、世界では08年のピークでも8%くらい、12年には5・4%に後退した。先を見る目の甘さ、無駄になった巨額の投資の経営責任も曖昧なままだ。図表2は、世界市場で韓国2社が躍進し、シャープをはじめ日本3社の世界シェアが後退したことを示している。

 「経営の独立を維持し、秘蔵っ子の高精密液晶技術の塊であるIGZOパネルを梃にして自力で再建するために」、韓国、台湾、米国のライバル企業から資本(資金)を導入してきたが焼石に水で、当面必要な2000億円強の資金調達ができなければ、倒産が現実味を帯びてくる。

 13年3月末現在で、シャープはいくつかの外国企業に自社を少しずつ切り売りして資本や資金を受け入れている。台湾・鴻海精密工業の郭台銘董事長から、堺工場を「堺ディスプレー・プロダクト(SDP)」に改組して、660億円の資金を導入した。アップルには、700億円の設備投資資金を出してもらい、亀山第一工場の一部をiPhoneやタブレット向け専用の液晶パネル工場化して提供した。本体には、クァルコム社から次世代ディスプレーの量産技術の共同開発資金を50億円導入し、サムスンは、103億円出資して、株式の3%強を取得し、60型と32型の液晶パネルの安定供給を受ける。

 鴻海精密工業とは、「共同でサムスンの覇権に対抗しよう」との提案を受けて提携へと進んだ。鴻海はアップルのパートナー・EMS(受託製造会社)で、iPhoneを中国で120万人の従業員を擁して生産している。郭董事長のSDPへの出資は、660億円で37・6%の株式を取得してスムーズに実現したが、シャープ本体への9・9%の出資では株価問題で折り合いがつかず交渉が難航する中、鴻海の狙いが「シャープの経営への参加とIGZO技術を取得するにあり」が伝わり、結局出資交渉は白紙になった。

 その間、「サムスンがシャープ本体に資本参加し、そして、シャープがサムスンにパネルを提供する」交渉が短期間で決着した。「経営参加を求めず、IGZO技術も求めない」資本参加である。サムスンの本心は、液晶パネルの購入はほんの入り口で、「シャープの、収益性が高く世界5位の複写機事業を買取り、自社の当該事業を梃入れしてその分野のトップ企業であるキャノンやリコーに対抗する」とか「ゆくゆくは経営に参加し、IGZO技術も入手したい」にあると噂されるが、取りあえずはパネルの供給を条件にすることに留めたといわれる。

 いずれにしろサムスンは、シャープの中に強い橋頭堡を作ったし、自社で巨額の追加設備投資することなく、シャープの最新鋭工場から欲しい量の液晶パネルの供給が受けられることになった。シャープは提携による資金導入をしながら企業の再建を目指しているが、資金量はまだまだ少なく、社債発行もままならない。今後最低でも必要とされる2000億円を自力で、公募と銀行への第三者割り当て増資などで、調達できるかどうかが、企業の存続を左右する。まさに背水の陣での資金集めにまい進するだろう。

 自力による調達に失敗すれば、白旗を揚げざるを得ない。諸外国の企業にとっては、シャープの技術・生産設備・有能な社員を丸ごと引き受け買収するか、必要な部分だけ切り取るチャンスが出てくる。アップル・鴻海とサムスンとの争奪合戦や分捕り合戦になる可能性がある。あるいは、シャープにも産業革新機構が乗り出して、日本の液晶技術を守るために、ジャパン・ディスプレイとの統合を働きかけるかもしれない。