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2013/06/28

<Korea Watch>経済・経営コラム 第61回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北⑤                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第61回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北⑤

◆日本のデジタル家電復活に不可欠なソフト価値創造◆

 「世界のSONY」というブランド力があるとソニー自身は言うが、デジタル家電ではサムスンから「もう怖くない、もう学ぶものは何もない」と言われている。インターブランドの世界ブランド価値ランキング2012年で、ソニーのブランド価値は、サムスンよりも下位の08年の25位から40位に更に急降下し、サムスンは21位から9位に大躍進した。「SONY」のブランド価値はここまで劣化したのだ。ちなみに、同期間アップルは24位から2位に大躍進した。iPhoneのお蔭である。

 デジタル家電の赤字続きで信用力が落ち、世界のソニーのシンボルの一つだったマンハッタンの米国本社ビルや所有株式を売却して資金を捻出している。

 サムスンに大敗北し企業力そのものを大きく削いだ液晶テレビ。今後は、テレビでの覇権を諦めて、デジタル画像、スマホ、ゲームの3分野に経営資源を集中するという。それは、成長戦略とは真逆の縮小均衡戦略と映る。率直に言ってどの分野も、ソニー復活の切り札になる力が不足しているのではないか。ソニーの今のデジタル家電には、かつて確かにあったソフト価値創りの独創性やわくわく感が欠けている。映画や音楽のコンテンツ・ビジネスや金融業で利益をあげているが、デジタル家電は赤字を止められないで経営の大きな負担になっている。デジタル家電の世界の王者の経験やプライドから抜け出して、いま抜本的な改革が必要だろう。

 たとえば、「SONY」ブランドを再定義して世界での量的拡大を止め、少量でも利益が取れる高級・プレミアムなデジタル家電に特化するとか、デジタル家電ビジネスを切り離して、拙コラム59で述べたように、「PANASONIC」「SHARP」「SONY」の3ブランドの統括会社に参加するなどが考えられるだろう。

 サムスンの頑健ぶりと対比した日本の家電3社の深刻な苦闘ぶりをここまで述べてきた。中小の液晶パネルや半導体の「ものづくり」を守るための再編成が政府系ファンドの主導で進行しているが、残念なことに、世界の消費者向けのデジタル家電ビジネスの再建や復活の具体的な・競争力がある戦略や道筋は、どの社からも見えてこない。

 それもその筈である。いま最も収益をあげているアップルのiPhone やiPadのように、デジタル家電の収益の源泉が、「機械の性能や機能というモノ造りではなく」、それは当たり前で、「現代のライフスタイルを豊かにしてくれるソフト価値やブランド価値というコト創りをする」独創的な創造力と想像力にあることを、日本3社はこれまで消費者価値創造の中心に置いてこなかったし、現在でもそのことをとことん納得して、トータルな経営改革・経営革新を進めてはいないだろう。

 図表3で、デジタル家電の価値連鎖の中で、最大の収益を生む源泉が川下のアップルやサムスンのような、ソフト価値やブランド価値創造にあることを示した。それに遅れた日本3社が大赤字になったのだ。日本のデジタル家電3社から、独創的な「コト創り」に向けて、現状を破壊するイノベーションの動きが伝わってくるのはいつになるだろう。

 サムスンもアップルも、3社よりも遥かな前方で、薄型テレビ、スマホやタブレットの先の、明日のデジタル家電の姿を求めて研究開発投資を続けているのだ。アップルはスマホの先に、「iTV」や「iWatch」(腕時計型)の端末を開発中だといわれているし、サムスンも腕時計型の開発を進めているようだ。

 グーグルは眼鏡型の端末「グーグル・グラス」を試作している。これらが、消費者価値としてデジタル家電の将来の本命になるかは分からないが、「新しいモノの形をした新しいコト創り」の競争がどんどん進んでいるのは間違いない。日本のデジタル家電は、素材やデバイスの「モノ造り」だけが生き残り、次代の消費者価値創造「コト創り」ができないまま、世界市場から駆逐されてしまうのだろうか。