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2013/07/19

<Korea Watch>経済・経営コラム 第63回 日韓中は世界経済への責任を果たせ                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆3カ国の見識と英知が今こそ必要な時◆

 著名経済学者アンガス・マディソンによると2030年には、アジアが世界経済の中心になり、世界のGDPの約54%を占める。中国が米国(17・3%)を抜いて世界一の経済大国(23・8%)となり、インドが3位に急伸し(10・4%)、日本はわずか3・6%になると予測されている。ASEANは日本を抜き一大経済圏になるだろう。50年の日本は、ブラジルにも抜かれて5位で、1位中国は日本の7倍近い経済規模になっているとも予測されている(PwCによる)。30年、日本は最先端技術を持つ最も裕福な国である。しかし、人口減少が続くので人口大国=経済大国の公式に当てはまらない中堅国となる。韓国について上記予測は触れていないが、日本と同じ一人当たりGDPを想定すると、人口が日本の二分の一弱だから豊かで小振りの先進工業国の位置づけだろう。中堅・小振りながら、日韓両国は国際政治経済への影響力を一段と高める賢明な戦略の実行が求められる。

 日本も韓国も、国内経済の拡大以上に、中国・米国・インドの経済大国やASEAN・EUの大経済圏の成長に、通商(貿易、直接投資など)を通して参加し貢献をすることが不可欠である。そのカギは、日本・韓国・中国が世界に張り巡らされた供給網と価値連鎖での協調と競争を拡大再生産することだ。一桁成長に減速し、投資バブルのリスクが大きい中国は、一段と高度に洗練された製品・サービスを提供して国内外の消費市場を拡大するために、日本と韓国の技術力・資金力・経営力を今後とも求めるだろう。日韓両国にとっては最大の消費市場・輸出基地であり続ける中国が、豊かさの源泉となる。インドもブラジルも日韓との強い経済連携を求めている。

 日本企業は、2000年代前半までの欧米など先進国中心の通商から、中国・ASEAN・インドなどの新興国に通商の重点を移している。貿易では中国が現在最大の相手国で、ASEANが米国と並ぶ二番目のパートナーだ。直接投資では、日本は中国とASEANへの最大の、韓国へは第2位の投資国である。一方韓国の中国への輸出額は総輸出の30%を占め、対日本・米国・ASEANの合計(28%)よりも大きい。また直接投資先の中国が、韓国の総投資額の35%を占めて最大だ。ちなみに日本にとって中国は全輸出の25%を占め最大だが、対米国・ASEANの合計は30%だ。日本の中国への直接投資残高は韓国の2倍近いが、その比重は11%に留まっている。日本の多国間でのリスク・バランスをとる通商と、米欧とのFTAを締結済みの韓国の中国へ強く依存した通商の違いが際立っている。

 残念ながら、日韓中の協調と競争がリスクにさらされている昨今である。歴史認識や領土を巡る対立の解決の見通しは立っていない。韓国と中国の対日牽制(敵視?)政策が続いている一方で、両国間の政治経済連携は強くなっているようだ。韓国の狙いは、①歴史や領土問題で連携して日本への圧力を強める、②韓中FTAの締結を早めて日本より優位に立つ、③対北朝鮮通商の9割を占める韓中が朝鮮半島での主導権を握る、④米韓中の枠組みで韓国が両大国の橋渡し役をする。中国の狙いは、①韓国を取り込むことで米国への楔を打ち込む、②北東アジアの地政学から日本を外す、②通商では韓国を代替にして日本を牽制する、などだろう。これでは日本と韓中両国との関係修復はますます遠のくばかりだ。

 歴史認識や領土問題で日本が韓中に屈するとは考えられないが、日本を外して米韓中の3カ国で、北東アジアを基軸にアジアでの主導権を発揮する地政学が現実になるかどうか。韓中両国が連携した北朝鮮への経済圧力は米国にとっても好ましいのは確かだが、韓国が中国に大きく取り込まれると米韓同盟を揺るがす。また、日本をアジアの最重要の友邦だと明言する米国が、韓中両国の狙いに同調する兆しはない。一方では、日本は韓中への気兼ねなく、独自に北朝鮮との国交正常化のカードを切り易くなる。北朝鮮は大歓迎するだろう。拉致問題の解決は、正常化交渉の入り口ではなく途中や出口でもよいわけだ。日本と米国、韓国と米国の同盟関係の真が問われる。

 国内消費が伸びず低成長経済の韓国が、中国と経済連携を強めることは当然の理だが、その分、非民主主義国でアジアの覇権を目指す中国に経済を依存するリスクが大きくなる。米中が対立→対決することになれば最大の被害を受けるのは韓国だろう。韓国に2つの軍事大国の橋渡しをする力はないし、実のところ韓国も中国と歴史問題(高句麗史の帰属、朝鮮戦争への中国軍参戦)と領土問題(離於島)を抱えている。

 日本と韓国そして日本と中国の対立、そして日本外しをねらう韓中の政治経済の連携は、日韓中3カ国の経済面での協調と競争の拡大、北東アジアの安全保障への日米韓の連携、そしてアジア全体の政治的安定性の確保にとって大きな阻害要因になっている。このままでは、予測されている豊かな世界経済の姿は、絵に描いた餅になりかねない。

 「歴史認識は各国によって異なる。自分たちの歴史認識を正しい歴史認識として他国に押しつけることなく、各国はそれぞれ事情を抱えていながらも、事態を管理・前進させる知恵が必要だ」(ブルッキングス研究所リチャード・ブッシュ氏、同上新聞5月14日)。「領土問題に両者が満足できる解決策はない。触れないか棚上げで、現状維持をつづけるしかない」。日韓中の政治の見識と英知が今こそ必要だと思う。