◆非正規には正規転換の機会与え社会的規制を◆
――新年の成長率予測は3・5~3・8%だ。潜在成長率を5年連続で下回るが、韓国の成長活力は今年回復可能か。
政府が3・8%と予測したもっとも大きな根拠は、民間消費の伸び率を3・0%と予測したものだった。個人的には3・0%の民間消費伸び率は中々難しいと思う。何より消費の根幹となる賃金所得が伸び悩んでおり、今年増えるという予測が中々立てられないからだ。もう一つは家計負債だ。これをみると、一般家庭の消費が伸びるとは思えない。さらに、高齢化が進むなか、年金の問題がある。50代以上の人々が老後について非常に心配しており、簡単に消費支出を増やせる状況ではない。では、なぜそのような甘い見通しを政府は立てたのか。政府としては、朴政権の発足時から、潜在成長率を上げていくことを目標に掲げていた。政府の立場からすると2015年度は、潜在成長率くらいの成長はしないと、という考えがあるわけで、そこから成長率を予測するしかなかったのではと思う。
――政府は、今年の経済運営上の政策課題として労働、公共、金融、教育の4部門の改革を実施する計画です。この4部門の改革をどう評価するか。
改革自体は必要と考える。ただし、その方向性が問題だ。たとえば労働分野では、正規と非正規の格差は非常に広がっており、非正規の場合は賃金が上がらないので、消費も増えないなど、マクロ経済にもプラスの方向に機能していない。だが、政府が今考えている方向が、私は正しいとは思わない。その理由は二つある。一つは、いま政府は労働市場を柔軟化しようとしている。過保護の状態にある正規雇用に関する規制を緩和し、非正規との差を縮めるということだ。つまり、正規の過保護が問題とされている。が、最も大きい問題は実は非正規が、正規転換の入り口を作り、後に正規転換できるかどうかだ。今回政府が考えているのは、例えば3~4年に契約期間を延ばすということだ。ただ、問題はどうすれば実効性をもたせるかということだ。2年で正規転換できなかった今までの経験に照らせば、たとえ3年に延ばしたとしても、3年後に企業が正規転換してくれるかといえば、そういうわけでもない。つまりは企業側が、こうした体質を変えない限りは難しいということだ。企業にはいくらでも逃げ道がある。まず、企業が正規転換をするという意欲をもち、次に、それを政府含め社会的にバックアップできるかどうかに限ると思う。つまり、正規に転換できる道を作ることを企業の社会的責任(CSR)の一つとして定め、それを社会的に監視できるような装置を作る必要がある。法の規定を裏で破って逃げていく企業に社会的制裁を加えるといったことを積み重ねていかない限り、問題解決には至らない。政府の方向性が正しくないと思うもう一つの理由は、正規雇用者の雇用の硬直性よりはその賃金の硬直性が問題だからだ。韓国の場合、基本的に年功序列型の賃金体系が前提であり、これは欧米の同一労働同一賃金とは原理が異なる。韓国に同一労働同一賃金の体系を持ってきても定着は難しい。年功序列型賃金カーブの硬直性にメスを入れた方がよい。
――金融や教育の改革は。
金融の今後を考えた場合、もっといいアイデアがあり得ると考える。例えば、地方金融をしっかりと育てることが重要だ。地域の活性化にとって、それを支援できる金融が弱いことが、非常にネックになっている。地域でコアになるような銀行がなければ、地域活性化は中々難しい。また、政府の教育改革の方向もピントが合っていない。いま、政府が問題にするのは、企業の需要と教育の内容が合わないということだ。端的には工学系への需要は旺盛だが、文系などは需要がなく、ミスマッチが起きているということ。ただ、エンジニアリング系の大学で学べば、良い機会が得られるかというと、必ずしもそうではない。
教育改革の一つの具体策として、企業の需要に合わせたオーダーメード型の教育訓練を施すというものがある。しかし、これも決して推奨すべきものではない。なぜなら韓国は流動性があるため、一つの企業に絞った教育をしてしまえば他での応用が利かず、長期的な人材育成の観点からも望ましいとはいえないからだ。
――公共部門の改革は。
公共部門はもちろん改革すべき余地がある。ただし、公企業以前に最も大事なのは、社会保障だ。いま公務員年金が大きな問題となっているが、社会保障は、今の政権だけでなく、5~10年のプランをもって、しっかり立ててやらなければならないだろう。ただ、公務員年金の改革以前に韓国に必要な社会保障の体制をしっかりつくる必要があると考える。日本と違って、年金を一元化しようという動き自体は悪いものではない。ただし、今の議論は、公務員の年金受給額が高いからそれを減らせという、ある意味バッシングのようになっている。実は一番重要なのは、基礎年金の整備だ。いま基礎年金は20万ウォンとなっていて、これでは全く老後が保証できない。この基礎年金をどれだけ上げられるか、その財源をどう確保するのか、そのための租税体系をどうするのかが最も重要だ。日本での税と社会保障の一体改革のように、これを本格的に議論しなければならない。