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2015/02/20

<Korea Watch>今年の韓国経済の進むべき道 ㊥ ~禹 宗杬・埼玉大学経済学部教授に聞く

  • 今年の韓国経済の進むべき道 ㊤

    ウー・ジョンウォン 1961年慶尚南道晋州生まれ。ソウル大学校社会科学大学経済学科卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程中途退学。99年埼玉大学経済学部専任講師に赴任。The Graduate School of Management(Anderson School) at UCLAの招聘研究員を経て、2005年から同大学経済学部教授。専門は労働経済論、社会政策論、人的資源管理論。著書に「韓国の経営と労働」など多数

◆租税体系整備し所得の再分配を◆

 ――財閥の肥大化が進む一方で大韓航空のナッツリターン事件にみられるように批判の声が広がっている。財閥が韓国経済をけん引しているのは事実だが、財閥のあり方をどう考えるか。

 財閥が今まで経済成長をけん引してきたという事実はある。これはしっかりと認めなければならない。ただし、今後を考えると、今のあり方を維持して韓国の経済、韓国の社会が耐えられるかどうか。つまり持続可能なのか。それを今、検討すべき時期、それも急いで検討すべき時期に差し掛かっている。この5~10年間をみても、財閥は内部留保を非常に増やしており、多くの現金を持っているが投資をしてこなかった。まず必要なのは、投資を増やすことだ。

 財閥問題を検討する時に、財閥そのものが投資や雇用をどう生み出せるかという点を一番目とすれば、二番目は財閥を取り巻く中小企業と共に成長することだ。政策的にどうするか以前に、共同成長しようとする財閥自身の意識がまだ弱い。

 三番目の課題は、ナッツリターンとも関連するが、財閥自らが本当の意味で創造的でソフトな存在になることだ。その変身を成し遂げてきたのなら、これほどまで国民から叩かれないし、社会的に尊敬できる存在になっていただろう。どちらをみても非常に権威主義的で、社員や利害関係者の意見を尊重しながら或いは合意しながら、創造的なものを生み出す体質にはなっていない。

 創造経済という言葉をよく耳にするが、経済を主導している財閥が創造的に変化をしなければ、ただの絵に描いた餅だ。周辺でベンチャーなどの存在があるにせよ、財閥が経済のコアである以上は、もうすこし財閥自身が創造的にならなければならない。そう変わるためのインパクトを与える意味で経済の民主化というものがあったが、今の政府のもとでは難しいと思う。経済の民主化は韓国が元々持っていた課題であり、いずれやらなければならない道だ。

 ――韓国は今年1月1日からコメ市場を開放。FTAの推進で農業部門の開放がますます進展する。韓国の農業の今後をどうみるか。

 韓国の農村を訪れてみると、本当に疲弊しているところが多い。これはイコール格差が広がっていることを意味する。FTAは製造業を含めた全体的なことであって、得をする分野もあれば必ず損をする分野も出てくる。農村は当然、損をすることになる。このままいけば、都農間の格差はもっと広がる。問題は、農村をこれまで通り保護するだけで維持できるかということだ。

 これまで、コメ農家を保護するために関税率を高め、所得補償するなどのことをしてきたが、農業の生産性が上がったり将来の展望が見えてくるわけではない。零細なコメ作りではもう無理なのだ。やはり製造業などで得をした分を地域に還元して、たとえば有機農家の作物を特産品にし、観光に繋げるなど、地域の底辺まで行き渡るような構造にしなければならないと思う。

 これを実現するためには、前出の地域に有力な金融機関が必要になってくる。そして、他の産業も含めて、下のほうに利益が流れてこなければ問題の解決は難しい。今後は、工業対農業という単純な構図ではなく、地域が活性化できるかどうかにかかってくる。しかし、その機運はまだ高まっておらず、地域と結びつけた生産性の向上を図らなければ、農業の維持、発展は難しい。

 ――産業競争力問題以外に少子高齢化、福祉問題など課題が山積みだが、韓国経済最大の課題は何だと考えるか。

 福祉などは当然重要な課題だが、一番の問題は分配だ。福祉も分配という問題が解決されなければ、全く軌道に乗らない。分配問題を解決する最も有効な手段は所得の再分配だ。一方で税収を増やして、他方で社会保障に使うということ。だから、普通は大きな政府に成らざるを得ない。

 しかし、いま韓国の問題は、大きな政府云々以前に、租税のほうがしっかり機能していないことだ。つまり、適切に税金を集めていないという意味だ。法人税でも累進制がしっかりできていない。韓国では、利益が10億ウォンから200億ウォンまでが、法人税率20%になっていると記憶する。200億ウォン以上は全て一律22%だ。より細かく区切り、累進税率を適用する必要がある。個人所得税でも同様な問題がある。それに比べれば、付加価値税とよばれる間接税の比重は高いほうである。こうした部分から先ず正す必要があるのではないか。以上を踏まえれば、必ずしも大きな政府をすぐ想定する必要があるとは言えず、それ以前の問題であると考える。

 租税体系の問題を解決した後は、納めた税金をどう使うかが課題となる。もちろん、福祉に必要な部分は回さなければならない。前出の基礎年金などはより充実化すべきだ。ただ、福祉以外に人間に対してもっと投資をする。つまり教育だ。大学教育だけでなく、職探しをしている人のための教育訓練、キャリアの開発のための教育訓練が必要だ。本当の意味での創造性涵養に貢献できる沢山の選択肢があるわけだ。実は今の韓国は、その部分が弱い。効率的に集めた税金をどう使うかとなった時に、必ずしも福祉だけではなく、人にもっと投資すれば、その投資した人から創出される価値があって、戻ってくるわけだ。これらを含め、改めて分配を非常に重要な政策として認識して、実際にやっていけるような体制を整えるべきだ。