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2015/06/05

<Korea Watch>韓国経済の現状と課題㊤ ~曺 斗燮・横浜国立大学経営学部教授に聞く

  • 曺 斗燮・横浜国立大学経営学部教授

    チョ・ドゥソプ 1956年生れ。高麗大学校政経学部政治外交学科卒業。高麗大学校経営大学院修了修士。東京大学博士課程修了。東京大学経済学博士。外換銀行入行、名古屋大学経済学部専任講師、同大学院国際開発研究科教授を経て、04年10月から横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授。著書に「三星の技術能力構築戦略」ほか多数。

◆強いウォンが必要、逃げず変える努力を◆

 ――成長が鈍化し、輸出がマイナスに落ち込んでいる韓国経済の現状をどう診断しますか。

 日本も含め先進国も成長が鈍化していてトータルのボリュームは横ばいだ。韓国の輸出もマイナスだが、結局は中国との関係だと思う。対欧州は横ばいで米国ともそれ程悪くはない。中国との関係で、様々な分野でかなり追い上げられ、韓国の輸出品目であった設備や中間財、部材などが減っている。中国企業が内製化を図ったためである。この分野は中国の国産化が着実に進むので、この傾向は続く見込みだ。そのため今後も中国向け輸出はかなり減っていくと思う。韓国は輸出に一喜一憂しないためにも内需拡大が緊要である。つまりは韓日共に内需をいかにして大きくするのかが課題だ。輸出がマイナスに落ち込んでいるが、最近の韓国企業をみると、それほど大変だと受け止めていない。しかし長期的には、中国と直接競合しない製品開発やものづくりが大切ではないか。そして、利益率を高める必要がある。

 ――IMFは最近の韓国経済報告書でウォン安誘導するための為替介入を制限すべきだと指摘しています。この指摘をどう評価しますか。

 韓国政府はウォン安に導こうとしているが、やはり強いウォンが必要だ。いま日本は円安だが、うちの学生も含め米国行きをためらう人が増えている。円は10年前と比べ4割くらい目減りした。以前の1㌦=80円台から今は120円台で、このレートだと米国での生活はたいへんであろう。米国は様々な分野において世界の最先端を走っている。彼らと一緒に研究していかなければならないが、この点円安が不利に働いている。円安で多少輸出が増えたり国内に仕事が増えたりしたかもしれないが、その逆効果も大きい。そして円安によって増えた仕事というのはあまり質が良くない。円安によって輸出が増えた時、その円安によって国際競争力が高くなっているものは何かと考えなければいけない。日本企業が円安だから韓国製や台湾製に勝っているとすれば、それは韓国や台湾と同じレベルのものを作っていることになる。

 韓国のマスコミは「日本復活」や「円安被害」などと報道しているが、一部に影響があるとはいえ、現場はそれほど緊張していない。その分競争力が高くなったといえる。以前は日韓関係がギクシャクすれば真っ先に経済界が悲鳴を上げ、すぐ収束に向かった。日本の設備や原材料への依存度が高かったので、経済問題が政治的葛藤を圧迫し、すぐ解決に向かうという力学が働いたが、今度は違う。その背景には政経分離と成熟した側面と原材料や設備などの国産化という側面があるのではないか。20年ほど前から半導体をはじめ原材料や機械設備の国産化が進んだ。また多くの日本企業が韓国に進出して現地生産している。日本の企業も日本だけではなく韓国企業と一緒に改良や改善を進めたこともあって、かつてのような技術従属はだいぶ緩和されてきた。対日貿易赤字は毎年減少し、技術移転をめぐる摩擦もめっきり減っている。私は自動車部品に関しては最後まで対日赤字が残ると考えていたが、去年は黒字という記事があってびっくりした。韓国の部品メーカーがトヨタに供給していることはまさに象徴的だ。

 ――韓国経済は、先進経済へ向けて転換期であり、経済革新3カ年計画を推進するなど対策を講じていますが、最大の課題は何だと考えますか。

 1980年代に日本経済が踊り場に入った。電化製品重視からワンランク上の経済を作らなければならない状況であったが、制度改革に手間を取ってしまった。韓国も同じ問題に直面している。規制緩和や労働市場の改革にてこずっている。例えば労働組合は既得権益を守ること以外には関心がなさそうだ。強い労働組合と柔軟な作業改善は両立可能なものだと考えられるが、両者の不信感は増幅するばかりである。実際高賃金は高生産性なら問題ないが、企業側は組合が不当な高賃金を要求すると言って国内投資を回避する事態にまでなっている。現代自動車が国内より海外投資に熱心なのは組合のせいだといわれている。韓国経済が先進国に向け前進するとき、一番のハードルが組合問題であろう。給料を下げるのではなく生産性を上げる方向に両者が努力する必要があるのではないか。

 あるデータによれば、トヨタの年収が700万円なのに対し、現代は900万円も貰っている。スズキは600万円だ。現代系列の起亜もやはり高い。円安による為替レートの問題があると考えられるが、この200万~300万円の差が、実力の差ではなく、組合の政治力の差だとすれば、これは問題だといえる。雇用も増えているのは非正規だけだ。韓国は今、年金改革の問題で賑わっているが、今回の妥協を失敗とみるべきなのかどうか。高い目標からすれば失敗かもしれないが、とりあえず事が動き出したこと自体、私は評価したい。日本の二の舞(NATO=No Action Talk Only)になるのではと思っていたからだ。あれだけ人気のない与党が補欠選挙で連勝しているのは、「韓国を変えなければ明日はない」という政府のキーワードを国民が支持しているからだ。もし野党が政権を執ったとしても、もはや変えることから逃げられない状態にきている。その意味で、韓国の官僚や政治家が日本の失敗をよく勉強し、多くを学んでいるのではないか。