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2015/10/16

<Korea Watch>曲がり角の韓国経済㊦ ~金明中・ニッセイ基礎研究所准主任研究員に聞く

  • 金明中・ニッセイ基礎研究所准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。研究・専門分野は社会保障論、労働経済学、韓日社会保障政策比較分析。

◆短絡的な国民意識変える大々的改革を◆

 ――韓国で青年雇用問題が深刻化しています。解決策はありますか。

 皆がサムスンなどの大手企業への就職を希望している。サムスンだけで10万人以上が応募したという記事を見たこともある。このように皆が上を目指しており、大卒者のミスマッチが深刻な状況である。サムスンを含めた大手企業以外の会社に入ると社会的に認めてもらえないという意識が強い。高校を卒業して工場に入って技術を習得して一人前になればいいと私は思うが、韓国はそういう仕組みではない。何をやろうと大学に入って、大学の卒業証が必要だという考えが広がっている。この意識を変えることが一番大事であり、学歴に関係なくドイツのマイスター制度のように機能により認められる仕組み作りが必要だ。

 その上で、授業料を安くするなど大学の教育を必要とする社会人が入りやすい仕組みを作ると今のミスマッチはある程度解決されるだろう。競争力のある中小企業が増えれば、中小企業に対する若者の意識がだんだん代わり、ミスマッチの問題が少しずつ解決できるのではないかと思う。

 韓国の人口は日本の三分の一強に過ぎないが、韓国から毎年20万人以上が語学研修で海外に出ている。日本からは6万人程度だ。語学に優れた若者が帰国しても韓国の労働市場は彼らを受け入れられるほど大きくない。ならば韓国だけではなく就職先は海外にもあるという意識を拡散させ、海外就職を支援する必要がある。


 ――韓日経済において、少子高齢化や非正規職問題など共通課題が多いですが、共同で研究・対処することも必要に思われますが。

 とても大事なことだ。共同研究がなぜ大事なのかといえば、歴史的背景もあって韓国の制度の始まりは日本とほぼ一緒だからだ。その後、80年代以降は韓国の若者が米国に渡って米国の制度を取り入れてからは日本とは異なる方向に進み始めた。しかしながら韓国と日本が関わっている問題は少子高齢化など共通している。それだけに別々に行動するよりは互いに同じ背景の制度の中から別のことを考えてきた両国が今、韓国は韓国、日本は日本で政策を考えるのではなくて共に知識を持ち寄って協力したほうが効率は遥かにいい。こういうことは研究機関だけでなくて、政府同士も両国の担当者が集まって定期的に開催すれば互いに学ぶ点も多く、韓日関係もだんだんと良くなっていくはずだ。これによって関係が改善されれば、ここから雇用もかなり生まれるのではないかとみている。一緒に行うことでコストを減らすだけでなく、経済の活性化に大きく役に立つと考える。

 ――朴大統領は就任時に「第2の漢江の奇跡」を提唱しました。明確に先進国に向けた新たな飛躍をするためには、現状改革の必要性を感じたからです。そのため創造経済革新計画などを進めています。韓国経済を長年研究してきた立場から、韓国経済再発展への提言をお願いします。

 「第2の漢江の奇跡」の実現については、将来に向けた協力を進め、忍耐することが大事だと考える。今の時代の韓国の人々は、あまりにも短期的なことだけを見ることに慣れきってしまっている。これを捨て、私の父親世代の考えに戻らなければならない。父親の時代には、自分の世代は惨めでも、将来の子孫のために頑張って、食べたいものも大事に蓄えるといった暮らしをしていた。今はそうではない。自分さえ満足すれば良くて将来のことはあまり考えていない人が多いような気がする。こういう思考回路だと、全てのものが短期的なもので終わってしまう。そして、将来に残すことが何もなくなってしまう。だから、今は辛くても将来のために我慢をする仕組みをつくるべきだ。

 もちろん政府や研究者の中にも、そういった考えの人はいるとは思う。そういう人々が集まって、国民の意識を変えるような改革を大々的に進めるべきだと考える。

 今の時代の人々を見ていると本当に心が痛い。今だけを見て、今の損得だけを考えてしまう。そして、悪いことは全て他人のせいにする、政府のせいにするといった意識がかなり強い。私が韓国にいた時はそれが分からなかったが、日本に来て韓国の国民の意識を変える必要性を強く感じた。やはり、これは変えないと韓国の長期的な発展は難しい。もし、発展したとしても、国民一人ひとりが幸せを感じる国ではなく、貧富や意識の格差が広がり、二分化された国になりやすい。私は祖国がそういう国になることを願わない。

 ――南北関係が及ぼす影響も小さくないと思いますが。

 統一のためにも意識の改善が必要だ。今の意識のまま韓国と北朝鮮が統一すると恐らく大変なことになると思う。二極化がますます進む可能性が高い。差別も増えるだろう。経済の発展も大事だが、今の時期から意識を変える政策と共に経済発展に向けた構想を進めるべきだと考える。朴大統領は自分の任期中に一つの国にしたいという考えが非常に強いと思う。それだけに今後の政策が注目される。

 ――将来を考えると、少子高齢化問題が心配ですが。

 その通りだ。少子高齢化を解決しなければ、韓国はかなり厳しい局面になると思う。現在、出生率は1・21で高齢化率は12・7%だが、将来的には39・8%にまで高齢化率は上昇する見込みだ。どうやって子どもを生ませて所得を保障して労働力を確保するのかをしっかり考えるべきではないかと強く思う。そして、最近韓国は朝鮮族をはじめとした外国人労働者の受け入れ政策を実施しているが、ただ外国人労働者の数を増やすことだけに政策のポイントを置かず、既存の韓国人にも配慮し、お互いに融和できる政策を実施するのがより効果的ではないかと思う。