◆中国市場での信頼感は揺るがず◆
フォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル車の排ガス不正が、9月中旬明らかになり、世界中に衝撃を与え、その影響はますます拡大・深化している。問題の核心はVWが、意図的に、ディフィート・デバイス(無効化機能)をディーゼル・エンジンに組み込んで排ガス基準を不正にクリアさせ、米国の大気浄化法に違反したことだ。単なる、「誰でも犯す間違い」などではない。VWは2008年から、無効化機能を組み込んだディーゼル車を「クリーン・エンジン」と広告して消費者をだまし、米国環境保護局(EPA)の14年2月以来の再三の問い合わせに嘘をつき続けてきた。まさに経済犯罪である。
不正車のリコールは勿論、損害補償や制裁も不可避である。全世界のリコール対象車は1100万台で、その内欧州が850万台、米国が48万台強、インド18万台、韓国12万台などだ。リコール費用、損害補償金、EPAによる制裁金を合わせると、総費用は約4兆円に達するとの試算がある。VWの2・7~3・0年分の純利益が吹っ飛ぶ巨額だ。最終的には10兆円規模の負担を迫れるとの試算もある。排ガス不正問題の影響が表れ始めた10月のVWの全世界での販売台数は、対前年同月比で5・3%減だった。欧米での失速が目立つ。グループのセアトやシュコダもそれぞれ3%減前後だった。9月は4・0%減。11月以降のマイナス幅は予断を許さない。
VWの不正について、震源地の米国、最大のディーゼル車市場の欧州、VWが国産・輸入を合わせてトップシェアを占める中国、VWが輸入車トップの韓国や日本の新聞論調を直近まで読み比べ、上記のように、最大公約数的に、事件の原因、影響の広がりや深刻度合い、VWの今後の金銭的負担の規模などをまとめた。
今回の排ガス不正は、VW一社の問題をこえて、ドイツの自動車産業や製造業大国ドイツをも揺るがすインパクトがあるとの議論も広がっている。安全・技術・品質のアイコンであるVWブランドが大いに損なわれただけでなく、世界の最先端を走る高級車を生み続けるドイツ車神話が崩れ、製造業の雄・ドイツ国の威信が傷ついた。つまり、VW発の不正はドイツの自動車とドイツ国のイメージをも破損するというVW→ドイツの自動車→ドイツ国の三層に及ぶ「負の連鎖論」である。しかし、私はこの負の連鎖論には賛成しない。国によって、上記した三層構造へのインパクトの受け止め方に、共通点がありつつ、大きな違いもあるからだ。
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