◆雇用創出効果小さいバイオ、IT、金融、M&A◆
世界景気の低迷とくに中国経済の減速、原油価格の低下などが、韓国経済を直撃し、最大財閥であるサムスンの構造調整を不可避にしている。世界的な需要減退により、サムスン電子の不振がグループ内取引を萎縮させ、主な系列会社の業績をドミノ式に悪化させている。サムスン電子が新たな成長を獲得するためには、バイオ・医療、電装事業、IT、金融などの次期成長分野を模索しているが、いずれの事業にしても売上の9割を占める海外市場を切り開けるかどうかである。現実には高い壁に直面していることから、残された手段としてリスクを伴うM&Aによる劇的な変化を求めていくしかない。
資産売却、不採算事業の縮小や切り捨てなどで得た資金をもとに、スマホと半導体に代わる新事業が生み出せるか、正念場を迎えている。
サムスンがM&Aに活路を求める理由のひとつは、素早く追いかけることで成功してきた経験則「fast follower」から、最前線で新たな事業を切り開いていくやり方に転換していかなければならないためである。基礎研究の人材育成や最新設備を投入して、新規事業を展開するのでは間に合わない。大量生産でシェアを獲得し、短期的な収益を狙える技術や製品ばかりを追い求め、基礎技術から革新技術に至るまでの地道な努力を怠ってきたツケが回ってきたといえる。
サムスンのM&Aや投資先の選定を遂行する組織は、サムスンベンチャー投資、サムスン電子本社直属のサムスングローバル革新センター(SGIC)、デバイスソリューション(DS)部門傘下のサムスン戦略革新センター(SSIC)などだ。
2012年下半期に設立されたSGICは、革新企業の買収合併、戦略的投資、ベンチャー企業の育成を担当する中心組織。SSICでは半導体・ディスプレーなど部品事業の未来技術の発掘を主業務としており、モノのインターネット(IoT)をはじめとしてヘルスケア、クラウド、ヒューマンコンピューターなどの新技術にも注目している。
SGICは、SSICとともにシリコンバレーの投資専門会社を通じて活動しており、14年8月のIoTプラットホームの開発企業「スマートシンス」、15年4月にモバイル決済システムの「ループペイ」を買収した。両社の買収は、サムスンのスマートフォンや家電製品とのシナジー効果が期待されている。
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