◆三代目に注がれる韓国社会の視線◆
2016年11月、サムスン電子は、米国のコネクテッドカー(IT技術とネットワーク化した自動車)とオーディオ専門企業ハーマンを80億㌦で買収した。李在鎔副会長の経営スタイルである実用主義、「選択」と「集中」が端的に表れた企業買収である。サムスン電子の次世代戦略事業はバイオ、金融、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、AR(拡張現実)、そして自動車(電装事業を含む)へと的が絞られてきた。
14年5月に李健熙会長が倒れてから2年半、この間、サムスングループは事業再編に取り組んできた。14年11月以降、サムスンテックイン、サムスントータル、サムスンタレス、サムスン総合化学をハンファグループに売却、サムスン精密化学、サムスンBP化学、サムスンSDIのケミカル事業部門をロッテグループに売却、専用機3台とヘリコプターの売却など動きを早めてきた。
その後大きな動きとしては、15年9月の統合サムスン物産(第一毛織との合併)の誕生である。商社・リゾート・建設・ファッションを統合したのだが、当初よりシナジー効果が生まれているかどうかには疑問符が付きまとう。統合サムスン物産は、李副会長が最大の株主であり、継承を確実にしたワンステップであることに間違いないが、グループの中核企業であるサムスン電子に対して李一族の支配力を高める機能は十分果たしていない。さらに16年9月、プリンティング・ソリューション事業部をHP(ヒューレット・パッカード)に10億 5000万㌦で売却、11月には中国レノボとPC事業部売却(8億5000万㌦)交渉中と伝えられる。
この2年間に本社移転と同時に、事業再編に伴うリストラが大々的に進行した。14年末から15年末の1年間に、サムスングループ全体では1万3636人の社員が減少している。さらにプリンティング・ソリューション事業部の売却で約6000人がHPに移籍し、李在鎔副会長体制への移行に伴い約2万人が犠牲になった訳である。
16年3月に発せられた李副会長の「ニューサムスン」宣言も、欧米に倣う水平的組織文化を謳いながらも、中身は垂直統合型のビジネスモデルそのものに変わりはなく、これまで以上に自己責任が強調されている。
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