世界経済は一体どこに向かっているのか。かつて経験したことのないような経済危機を前に人々の不安感が高まっている。資本主義の総本山というべき米国が危機の震源であり、「資本主義の終末ではないか」という議論まである。世界経済の現実をどう見るべきなのか。アジアで韓国と日本はどのような協力体制を築くべきなのか、韓定鉉・KOTRA日本地域本部長に話を聞いた。
――世界的な経済危機で、韓国にはどんな影響が及んでいるか。
韓国は貿易が国内総生産(GDP)の70%を占め、さらに貿易の半分は輸出が占めている。対外依存度が非常に高いので、最大の輸出先である米国市場で消費が萎縮すると、その影響を大きく受けやすい。昨年のサブプライムローン問題に端を発するアメリカ発金融危機が韓国の実体経済にも影響を与え、輸出や成長率がマイナスに転じた。同じ立場にある日本やヨーロッパよりも打撃は大きい。
ただし、昨年10月以降、減少が続いていた輸出に多少の回復傾向が見える。今年に入り2月以降は減少幅が小さくなり、3月は部品や原材料の輸入が減ったことで貿易収支に30億㌦ほどの黒字が見込める状況だ。ウォン安のおかげで韓国を訪問する外国人観光客が増え、観光など一部産業は潤っている。
――李明博大統領は今の危機から脱け出て先進国化するための戦略を打ち出しているが。
戦略というよりは危機克服のための一つの手段として、韓国製品の輸出に力を入れる必要があると考えている。
今は韓国の部品・素材メーカーにとって、ウォン安・円高を利用してビジネスチャンスを拡大する良い機会だ。今まで韓国製品は安い人件費で生産される中国製品に価格面で勝てず、品質面では日本の高い技術力に押されるなど、日中両国間で「サンドイッチ状態」に陥っていた。
しかし最近の為替変動やここ数年の技術向上で、韓国製品に追い風が吹いている。つまり極端に高度な技術力が求められない汎用部品・素材などの分野では、韓国製が品質や価格面で中国製や日本製より優位に立つという逆転現象が起きている。私はこれを「逆サンドイッチ現象」と呼んでいる。たとえばトヨタ自動車は生産コスト削減のため、ポスコから自動車用鋼板の供給契約を結んだ。日本のメーカーが資材の調達先を中国や台湾から、韓国へと変更する動きが目立っている。
――投資や誘致でも新しい動きが出ているが。
これまで東レや旭硝子などがサムスンやLGに部品・素材を納品するため、韓国の現地に工場を建設したことがあるが、最近は投資専門会社(ファンド)が韓国に投資する動きを見せている。
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)はこのほど日本の不動産投資会社のバナワールドインベストメント組合と、仁川経済自由区域など開発プロジェクトに30億㌦を投資する意向書を交わした。また、大阪の投資専門会社ヒューマン・ハーモニー・アンド・インターナショナル・パートナーズ(HH&IPJ)とも10億㌦規模の対韓投資へ向けたMOU(了解覚書)を締結した。
投資の背景には、急激なウォン安に加え、韓国の不動産価格が下落しているなか、今の時点で韓国に投資しておけば3~5年後には10%程度の利回りが保証されるという期待感がある。投資家にとっては、今が絶好のチャンスだ。今後、為替レートがウォン高にふれ、景気回復で不動産価格も上がれば、二重の利益を得ることができる。海外メディアからも対韓投資についての問い合わせが急増している。韓国の投資価値が見直されてきたと言える。
――長期的にはどのような対日戦略を描いているのか。
韓国も成長率が年5%を下回るようになり、高度成長時代は終わった。今後は産業構造の見直しが課題となる。家電や自動車などの既存の成長分野ではなく、未来の成長エンジンとなる新しい産業を育てねばならない。環境やエネルギー分野が中心だが、経営者にも技術者にもクリエイティビティ(創造性)が求められる時代になっている。
KOTRAも貿易促進や投資の誘致という従来の業務のほかに、人材確保にも力を入れている。技術者をはじめ、経営、品質管理、経理などの専門知識や技能を持つ人材を全世界から韓国の企業に誘致するサポート機能を充実させたい。KOTRAの世界的ネットワークを使い、産業分野別に技術者ネットワークを作っている。
――KOTRA日本地域本部長として、どのような活動をしているのか。
貿易不均衡(対日貿易赤字)の解消と韓国への投資誘致に力を注いでいる。大手企業や中小輸出企業が日本に進出する際の手助けとなるようなマーケティング活動を強化している。現在は東京が中心だが、自動車部品は名古屋、電気・電子や金型なら大阪と名古屋、物流関係なら福岡というように、4地域の特徴を考慮したバックアップ態勢を整備している。
昨年、李明博政権は実用主義外交を打ち出し、日本に対しては貿易収支の改善に積極的に取り組んでいる。輸出減退で貿易の規模が全体的に縮小しているなか、対日赤字がより目立っていることは事実だ。私も昨年は大統領に4回面会して、経済状況や対日戦略を報告し、投資家も紹介した。 外国からの対韓投資は昨年、前年比で11・7%増となったが、そのうち日本からの投資は43・7%増を記録した。対韓投資全体に占める日本からの投資比率は今後かなり上昇することは間違いなく、今年はもっと多忙になると思う。
――対日貿易赤字の改善のため、日本の部品・素材メーカーを韓国に誘致しているが、効果は上がっているのか。
根本的な赤字解消のためには、韓国メーカーの技術レベルを日本並みに向上させる必要がある。たとえばサムスン、LG、現代などに納品している日本のベアリング製造業者を韓国に誘致し、国内で生産させれば計算上は年間1億㌦の対日赤字が減る。ただし、材料を日本から輸入すると経費が8000万㌦かかるので、真の意味で赤字解消とはいえない。技術開発の過程で一時的には輸入に頼るとしても、中長期的には国内で材料や部品調達ができるようにすることが肝要だ。
――今回の危機でアジア地域の役割が改めて注目されている。韓日は2国間の問題に限らず、今後は世界レベルの共通課題に共同対処していくことが求められる。両国は世界の舞台でどんな役割を果たすべきか。
米国などに保護主義の兆候が見られる。韓日は輸出国で対外依存度が高いという共通点があるので、保護主義の阻止のため連帯することも必要になるだろう。さらに韓日はアジア地域の経済発展をリードしていくモデルを構築しなければならない。
最近、アジア諸国では日本よりも韓国の発展モデルへの関心が高い。私がベトナムのハノイ貿易館長をしていた時、ベトナム政府から何度も助言を求められた。KOTRAのような貿易促進機構を作る時、日本のJETROではなくKOTRAのノウハウや経験に学ぼうとする姿勢が顕著に見られた。今後は中国も発展モデルになるかもしれないが、共産主義国家なので限界がある。資本主義と民主主義が根付いている韓国の発展モデルがアジア各国の参考になりやすい。
さらに韓日は第3国の問題で連携できる。北朝鮮に関するレポートを作ろうとする場合に、KOTRAとJETROの情報を合わせれば、より完全な報告書ができあがるだろう。資源争奪戦が激しいアフリカ地域への進出を模索する際、ドバイにある両国の貿易事務所が共同で資源開発や貿易投資戦略を構築するなどの連携を検討している。
――韓本部長は日本に5回目の滞在ということで、韓日関係を長く見てきた経験をお持ちだが、今後、韓日経済はどうあるべきか。
日本の企業は採算が合うという見込みがなければ投資はしない。KOTRAは投資が滞りなく進むようサポートする立場だ。韓国に投資をして良かったと思ってもらえるようなサポートをしたい。税金対策から教育、厚生、生活分野まで、細かく面倒を見なければ投資の持続や拡大を期待することはできない。
韓日関係は政治的な問題で冷え込んだりすることもあるが、貿易規模や投資額は拡大を続け、人的交流も大変盛んになるなど、良好な関係が続いている。日本の政治家の妄言が経済関係に大きな影響を及ぼすことも少ない。底流では企業やビジネスマンが良好な関係を築いている。
あえて日本側に注文したいことは、経済のリーダーになったからには一企業の利益だけを考えるのではなく、経済関係の全体を見渡してメッセージを発信してもらいたいということだ。韓国側も日本が大事なパートナーであることを認識して、豊富な経験やノウハウを学び取る姿勢が大切だと思う。