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2009/05/15

<オピニオン>世界経済危機と韓国                                                               甲南大学経済学部 高 龍秀 教授

  • 世界経済危機と韓国

    コ・ヨンス 大阪府立大卒、大阪市立大学大学院修了。1991年に甲南大学経済学部専任講師、その後、助教授を経て、2000年より甲南大学経済学部教授。01年から1年間、ハワイ大学に留学、客員研究員を勤める。著書に「韓国の経済システム」「韓国の企業・金融改革」など。

 昨年秋以降の世界的な金融危機で韓国も株価や為替が暴落するなど大きな影響を受けた。最近、世界的に株価の回復が見られるが、楽観できない状況が続いている。今年後半まで世界的にマイナス成長が続くことが予測されており、多くのリスク要因に備える必要があると指摘されている。「世界経済危機と韓国」について甲南大学経済学部の高龍秀教授に分析していただいた。

 2008年9月15日、米大手金融機関リーマン・ブラザーズの破綻を引き金に世界は金融危機、そして大不況の時代へと突入した。すでに07年からサブプライム関連の不良債権が拡大し、特に欧米の金融機関が莫大な損失を抱えて経営危機に陥った。リーマンショックを引き金に、世界中で株価が下落し、日本の円と中国の元以外の通貨が大きく下落した。金融危機の影響を受けアイスランド、ウクライナ、ハンガリー、ベラルーシなどがIMFに救済融資を求め、金融危機はスピードがあまりに速く、世界のありとあらゆる地域に広がるという特徴を見せている。この金融危機は、直ちに世界の実体経済を直撃した。

 08年10月から12月のGDP成長率を前期比年率でみると、日本がマイナス12・1%、米国がマイナス6・2%、ユーロ圏がマイナス5・7%と軒並み大幅なマイナス成長となり、これら地域への輸出に依存してきた韓国もマイナス20・8%と深刻なダメージを受けている。09年も先進国全域のマイナス成長が予測され、「世界同時大不況」の様相をみせた。最近、世界的に株価の回復が見られるが、楽観できない。

 この世界金融危機の暴風雨の中で、08年10月以降に韓国でも株価が下落し、ウォンレートが暴落していった。まず韓国ウォンの対ドルレート(1日当たりの売買基準レート基準)は、08年初めの1㌦=934・5ウォンから9月より下落の速度を速め、年間最安値となった11月24日の1㌦=1509ウォンへと、1998年以来の10年ぶりの安値となった。

 ウォンの対円レートをみると、08年初めの100円=838・20ウォンから年間最安値をつけた12月8日の100円=1598・25ウォンへと50%近い急落を見せている。09年に入り3月3日に、1㌦=1573・6ウォン、100円=1620・76ウォンと前年の最安値を超えて下落する時期もあったが、この日を底にレートは回復を見せている。

 この時期に韓国の株式市場も大幅な下落を見せている。韓国の総合株価指数(KOSPI指数)は07年11月1日の2063・14ポイントから下落し始め、08年10月以降に下落のスピードを速め、08年の最安値となった10月24日に938・75ポイントに落ち込むまで、1年で54・5%の暴落となっている。ハイテク企業を中心とするコスダック指数も08年の最高値であった1月4日の719・25から9月以降に下落を続け、10月27日にこの年の最安値である261・19まで3分の1程度に急落している。このように、07年後半から翌年にかけて韓国の株価が急落した大きな要因として、外国金融機関の大量の株売却という問題がある。

 韓国証券先物取引所のデータによれば07年の1年間で、外国金融機関は韓国上場株式で24兆6165億ウォンを純売却(売却額―購入額)し、08年の1月から11月では、36兆7675億ウォンを純売却している。

 07年の外国金融機関の株式純売却額24兆6165億ウォンを同年の平均レートである1㌦=929・2ウォンで換算すると、265億㌦となり、これだけ大規模な「売り」が入ったため、韓国株式市場は底なしの下落を見せることとなった。

 サブプライム問題に端を発した世界金融危機により、先進国の多くの金融機関が莫大な損失を負い、巨大金融機関リーマン・ブラザーズですら破綻する事態となった。

 このパニックのなかで、世界のマーケットでは「リーマンが破綻するなら次はどこが破綻するか分からない」という不信感が蔓延し、手元資金を潤沢に確保する必要性に追われ、韓国などアジアの保有株式を大量に売ってきたことが背景にある。

 外国金融機関が韓国株式売買を「手じまい」する過程では、韓国株式を大量に売却し、その代金のウォンを直ちに売却しドルを購入して「手じまい」が完了することになる。したがって、外国金融機関の韓国株売却は、直ちにウォン売却につながり、株価下落とウォン下落が同時進行することになったといえる。

 今年3月中旬以来、韓国と世界のマーケットは比較的安定した状態を見せている。韓国は、チェンマイ・イニシアチブと呼ばれる日本・中国・ASEAN諸国との外貨準備融通協定を拡大し、米国ともドルとウォンのスワップ協定を実施したため、危機に対するセイフティ・ネットが整備されてきた。この間のウォン安を活用して輸出を拡大する大手企業も見られている。また、09年の第1四半期の韓国のGDPは、前期比でプラス0・1%となり、明るい材料も見られている。しかし、世界経済は依然として大きなリスクを抱えている。第1に、欧米金融機関の膨大な資本不足を公的資金注入などで解決できるか、GMやクライスラーという巨大企業の破たん処理を迅速に行えるかという大きな課題があり、これに失敗すると直ちに世界の金融市場が動揺し、韓国の為替と株価も下落するリスクを抱えている。

 第2に、先進国と韓国政府が不況対策の財政出動を有効に実施できるかという課題がある。今年4月にIMFが発表した09年の世界のGDP成長率は、日本がマイナス6・2%、ユーロ圏マイナス4・2%、米国マイナス2・8%で世界全体もマイナス1・3%という予想で、今年後半まで世界的にマイナス成長が続くことは確実であり、多くのリスク要因に備える姿勢が必要となるだろう。


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