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2009/07/03

<オピニオン>企業の顧客意識                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から50回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、海を越えて韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。日本と似て非なる韓国社会や企業文化に接し、彼らは何を感じ、隣国をどう評価しているのだろうか。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任した佐藤登さんの異文化体験記をおとどけする。

 各業界ともビジネスの基本のひとつに、顧客満足度を如何に高めるかという部分があるので、これを疎かにすると大きな痛手を被ることも多い。であるがゆえに、調査機関による顧客満足度ランキングが毎年調査され公表されることになる。

 1980年代前半、ホンダが米国工場建設と同時に材料調達を図る目的で、米国の鉄鋼企業を訪問し協議した際に、ホンダが要求した鋼材仕様に対して鉄鋼各社は難色を示した。というのも米国の自動車各社が満足して採用している仕様に対し、ホンダのそれは更にきめ細かな内容を要求したからである。鉄鋼各社の言い分は、「GMやフォードが満足して使っている材料に対して、ホンダがそれ以上の仕様を要求するのは理解できない」というものであった。

 日本の鉄鋼各社は当然とも言えるほど、顧客である日本の自動車各社の様々な要求の元で技術開発を繰り広げ顧客満足度を高めて行った。その結果どうなったかと言えば、米国の鉄鋼業界は次第に競争力を失い衰退の一途を辿ったのである。

 自動車業界も類似している。GMの破産法適用が象徴するように、米国の自動車各社の世界競争力は著しく低下した一方、日本の自動車各社がシェアを上げた。韓国の現代自動車も北米へ輸出を開始した1980年代前半の品質に比べれば格段の飛躍を果たし、顧客満足度では日本やドイツの自動車メーカーに優るとも劣らないスコアを得ている。いずれも市場分析、顧客分析を行うプロセスから商品開発、品質改革を実行している結果である。GMに代表されるように、製品開発は顧客優先と言う概念より、長年培ってきた収益性の高い大型車開発への固執、燃費向上のための研究開発の軽視、最近では環境自動車での出遅れと見劣りなどが響き、顧客の心を掴めずにいる。

 サムスンの薄型テレビ、携帯電話の市場における伸びも話題になっている。徹底したマーケッティングと顧客開拓を軸に、欧米市場と新興国を中心にビジネスを拡大している。もっとも、携帯電話では一時、高級製品志向の開発を進めたがゆえに新興国などの開拓が出遅れ、競合他社に水をあけられる場面もあったが、いち早く戦略の見直しによる低価格品の品揃えも図り、この結果、新興国などで急成長を遂げた。企業の一方的思惑ではない市場優先の意義がいかに大きいかが伺える。

 韓国内のサムスンのサービス体制もしっかりしている。私自身、携帯電話やDVDプレイヤーの不具合からサービスセンターへ持って行ったことがあるが、まずはその場で該当品を調査し、製品不具合がどこでどのように起きているかを中を開けて説明してくれるし、それを修理する場合の費用見積もりもその場で行ってくれる。このようなアフターサービスを受けられることで、消費者は安心して製品購入の意識を刺激されるのだろう。

 フランスとスペインのLブランドでも大きな差異を実体験した。フランスL社のビジネスバッグを購入し、時折使用していたころ、3年ほど経過してから取っ手の部分がはずれてしまった。都内にあるサービスセンターへ持ち込んだところ、その場で修理してくれたし、補強をお願いしたらそれもやってくれた。購入から3年も経過していたから有償は想定していたのだが、使用頻度が少なく新品に近い状態であったという理由から、無償で対応してくれたのには驚いた。

 サムスンへの移籍と同時に、機内への持ち運びが便利なトロリーバッグを購入するにあたりスペインのL社製品を購入した。3年くらい使っていたところ、ファスナー部分に破損が生じたため購入店へ持ち込み修理を依頼した。数日後に届いた電話は「修理不能」というとても驚くべきものであった。

 ファスナーの張替えで済むはずのものが修理できないということは、そのバッグはもう使えないことを意味する。これは顧客の立場では到底理解し得ない出来事であり、販売店と相当な押し問答をした。そこで漸く見つかった解決策が、そのバッグを修理できる業者を発掘できたということであったので、アフターサービスに関しては意識が低すぎる感が否めなかった。高級ブランドでも、個々にアフターサービスがこれほど違うものか改めて認識したのである。

 ブランド力の指標は多々あるだろうが、顧客が困った時に上質なサービス体制と対応を提供できるかが最大の要素と考える。押しなべてビジネスがうまく進行している企業の状況を眺めて見ると、アフターサービスの質が高いことが共通要素としてある。これがリピーターを得る最大の武器のひとつであることを考えれば、売りっぱなしではない付加価値を、製品であるハードには見えない部分に、どこまでそのソフトを張り巡らしているのか、それが後々消費者を惹きつける魅力になるのだろう。


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