昨秋のリーマン・ショック以降、未曾有の不況が続くなか、最近になり株価上昇など回復の兆候が見受けられる。日本は100兆円を超える金融対策と財政支援を行い、韓国も既存産業の構造転換を進めながら50兆ウォンを環境分野に投資するなど、新しい成長産業の育成に力を入れている。韓国と日本は自由貿易交渉(FTA)妥結に向け、貿易不均衡の改善や投資活性化を進めるなど、協力体制の強化が求められている。韓日関係の現状と行方をどう見ているのか、日韓経済協会の飯島英胤会長に話を聞いた。
――世界経済は年初の深刻さに比べると、株価上昇など回復の兆候が見受けられる。現状をどう見ているか。
金融危機に端を発した今回の経済危機の影響は実体経済に波及し、世界に同時不況をもたらした。従来は輸出で稼いで在庫調整をしながら国内の市況回復を待つということもできたが、今回は同時不況なので逃げ場がない状況だ。しかし景気が良いと見る企業と、悪いと見る企業の割合で景況を判断する日銀短観は依然としてマイナスではあるものの、下げ止まりの傾向を見せている。秋口から明るさが見えてくるのではないだろうか。
――世界経済危機克服へ向け、各国とも財政と金融政策を総動員している。日本と韓国の対応をどう評価されるか。
金融不況と実体経済不況という「双子の不況」に対処するため、G8(主要8カ国)やG20などの国際的会合が迅速に開かれ、各国がその方向性を理解したうえで、金融対策や財政出動などの行動を起こしている。日本は100兆円を超える財政支援を行った。これまでのように輸出に依存できないので、内需拡大にエンジン機能を持たせ、国際経済が立ち直るまでは、財政出動や金融支援政策を取り続ける必要がある。世界の需給バランスはいまだ「まだら模様」で、回復を示す指標が鮮明になっていない。日本も韓国も、個人消費や民間設備投資、貿易が低調な現状では、雇用対策の強化など、財政出動による公共投資を強化するのも、やむをえないことだと思う。
――世界はエコ型の産業転換へと動き出した。李明博大統領も昨年8月15日の光復節記念辞で「緑色革命」を唱え、低炭素社会実現に向けての政策を打ち出している。
既存産業の構造転換と、将来の成長産業であるエコビジネスの育成をバランスよく進めることが大事だ。雇用不安などで個人消費が低迷しているが、景気が回復すれば、元々成長産業である自動車や薄型テレビ、携帯電話が消費回復を主導するだろう。同時に、ハイブリッド車や省エネルギー型製品の開発、それに太陽光発電、風力発電などの新しい成長産業を育成する必要もある。韓国も50兆ウォンをグリーンニューディールに投資する計画だが、日韓共同、または「ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス」という枠組みで開発を進めることも大事だ。韓昇洙(ハン・スンス)総理も最近の講演で、アジアにおける低炭素社会の共同構築を強調していた。そんな発想がこれから大切になると思う。
――世界経済危機に対して韓日の経済界もさまざまな取り組みをされたと思うが、どんな成果があったのか。
両国首脳のシャトル外交が動き出し、経済界でもビジネスサミットが4回開かれ、首脳会談には経済界の代表も首脳に同行するなど交流が活発化している。その流れの中で、日韓自由貿易協定(FTA)交渉が課長レベルから審議官レベルに格上げされたことは大きな進歩だ。さらに、今までの交流を通じ、金融、経済、環境問題での認識を両国で共有することもできた。2年前、釜山で開かれた経済人会議で、日本の環境ビジネスの成功例を共同宣言に盛り込もうとした時に、韓国サイドから異議が出された。ところが、昨年7月の洞爺湖サミットに李明博(イ・ミョンバク)大統領が参加して以降、韓国の政財界でグリーン産業への関心が高まっていることは大きな前進だ。
――4月に韓日経済人会議がソウルで開かれ、両国が協力して地域経済の活性化を図ることに合意した。成果と課題を聞かせてほしい。
双方から312人(韓国188人、日本124人)が参加した。各論での話し合いはできなかったが、両国の経済活動の指針となるような成果を挙げたいと思って臨んだ。例年、経済人会議傘下の日韓新産業貿易会議で、貿易、投資、人的交流、共同研究の4分野の課題をまとめている。今年は投資活性化について、日本から10数項目、韓国から4項目が提言された。課題のひとつは、民間企業の退職金制度の見直しだ。韓国では退職理由に関係なく勤続年数ごとに支給係数が決まっていて、それをもとに退職金を算出している。これでは韓国に進出している日本の企業にとって、人件費の負担が重くなってしまう。このため、退職事由別に係数が変わるやり方に変更することを韓国側に求めている。
――韓日経済の協力のあり方として、部品・素材産業の協力が提議され、韓国で展示会も開かれたが、今後の見通しは。
貿易不均衡を改善するには3つの課題がある。1つは韓国側が対日輸出を拡大するということ。2つ目は、日本企業が韓国に輸出している部品や素材を韓国で作れるように投資するということ。第3は、韓国が開発力を強化し、人材を育て、部品素材産業を自ら育成するということだ。対日輸出の拡大については新しい動きが韓国で起きている。日本のバイヤーを呼んで自国製品をアピールしたり、日本企業が韓国から調達したい部品・素材を展示し、同じようなものを作れる韓国企業を発掘する「逆見本市」がKINTEX(ソウル近郊の韓国国際展示場)で開かれた。率直な感想を言うならば、韓国企業は日本のマーケットを重視した販売戦略を講ずる必要がある。投資の拡大については、東京、大阪、名古屋、九州で説明会が開かれたが、韓国が期待するほど進んでいない。その理由は、韓国の魅力を十分アピールできていないからだと思う。
投資環境においても税制や知的財産権、労務の改善などの課題があるが、4大工業団地ごとにどんな分野の部品・素材産業を誘致したいのかを具体的に示してもらえると有り難い。たとえば、携帯電話や薄型テレビなどIT製品の生産拠点である亀尾(クミ)工業団地は、日本のどんな産業に来てもらいたいのかを具体的に提案してほしい。10月に日本の中小企業関係者30名を韓国へ派遣するが、詳細な意見交換と現地視察をしてもらいたいと思っている。日本の企業が前向きに考えられるような情報を提供してもらうことも重要だ。
――韓日FTA交渉の動きが鈍い。韓日経済人会議は昨年に続き、今年も早期開催を決議した。最大の膠着要因は何か。
韓国の外交および経済部署からはFTAに対して前向きな発言が出ている。日本側は外務省も経済通商省も積極的だ。問題は農業だけでなく、自動車産業や中小企業など産業界に与える影響の大きさを心配する向きがあるからだと思う。
貿易不均衡の解消については、韓国の貿易を支えている部品・素材分野の赤字と、その他消費財の赤字とを区別して考える必要がある。むしろ、当面は日本のハイテク部材を徹底的に使って、世界でトップクラスの携帯電話や液晶テレビ、自動車、船を製造するという割り切った考えも必要なのではないだろうか。日本の部品や素材を使いながら、将来に向かって自国の技術開発力を強化して製品の自国化を図るとともに、日本からの事業投資を誘致して不均衡を解消するという方向性を模索してもよいと思う。
また、共同市場化をめざすこともよいと考えている。FTA締結により部品は無関税で調達することができるようになる。それで韓国の輸出拡大を図り、黒字を大きくする戦略を議論したらどうか。大枠で合意して、各分野の個別問題については後で論議してもよい。いずれにしろ、強い政治的なリーダーシップが必要になる。
――アジアの時代といわれている。世界経済をけん引すべく韓日が手を携えて新時代を切り開くチャンスだが、韓日の経済界のリーダーは何をすべきだろうか。
今回の不況から、世界がネットワークで結び付いており、各国の経済が相互依存関係になっていることを学んだ。いまや政治と一体となって経済問題の解決が図られる時代になった。今回の経済危機でも国際的な協力体制の重要性を認識することができた。20世紀は東を向いて、即ち米国を向いて走ったが、21世紀は西を向いて、即ち中国やインドなどを視野に入れて経済活動をしていく必要がある。世界GDPに占めるアジア経済の割合は、1995年に23%だったが、2014年に27%位に拡大する見通しだ。アジアは世界の成長市場になっている。これからは経済共同体を視野に入れ、保護貿易を避けながら行動する必要がある。日韓協力はその前提になる。日本は若年労働力が不足しているが、韓国は若年失業率が高い。人材育成を目的に、同一の雇用市場、労働市場を構築することも念頭に置いて人材交流を進めてもよいだろう。何よりも信頼関係の構築が大事だ。