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2009/08/07

<オピニオン>在日韓国人との交流                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から51回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、海を越えて韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。日本と似て非なる韓国社会や企業文化に接し、彼らは何を感じ、隣国をどう評価しているのだろうか。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任した佐藤登さんの異文化体験記をおとどけする。

 7月上旬、大阪において韓国にルーツを有する方々を対象にした「第4回世界海外韓人貿易協会次世代貿易スクール」に講師として招かれ講演した。OKTAと称する本組織は、韓国本国以外に在住する海外韓国人を対象とした社団法人で、本国と海外各国の貿易促進などを通じて世界的なビジネスネットワークの構築を目指している経済団体である。ソウルに国際事務局の本部があり、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)の傘下団体として韓国政府の知識経済部の支援で運営されていることを今回のイベントを通じて知った。

 現在、世界100箇所を越える都市に支会があり、支会ごとに会員がボランティアで運営しているとのことである。その活動の中の重要な事業のひとつとして「次世代貿易スクール」と言うセミナーを実施しており、今回のスクールセミナーでは私自身の経験談や次世代を担う青年に対するメッセージという観点で招聘された。

 ところで私に講師の依頼をした背景を関係者に尋ねたところ、この会の南会長が本紙を購読されていて、私がこのような形で連載している記事を読んでのことだったと知り、本紙が果たしている韓日の懸け橋的な役割を改めて実感した。

 私はサムスンとホンダというグローバル企業において経験した企業文化から、韓国企業と日本企業の差異、今後の国際社会という枠組みの中で企業が目指すべき方向性、および各国の国際競争力などについて話をさせていただいたが熱心に聴いて頂き、そして質問を通じながら有意義な時間を共有することができた。

 他の講師陣は韓国人として日本で成功を収めている顔ぶれであって、今回の聴講予定枠50人の定員を大幅に上回り80人規模に膨らんだと聞いた。既に起業して活躍している社会人が多い中、これから米国に留学しようとしている学生もいて、年齢層も職業も幅広い構成であった。この形式のセミナーは毎年行われていて参加者も積極的にエントリーしていることからも定着して有名になりつつあり、議論も活発になっていることも大きな特徴である。

 参加者の大半は日本で少なからず苦労をされているだろうが、その分、ハングリー精神、挫けずめげずの努力と挑戦のエネルギーは日本人として見習うべきところが多い。

 他の講演の中にも紹介事例として採り上げられたMKタクシーの成功例があったが、私も時折利用していて感じるのは日本のタクシー業界には無いビジネスモデルを創り上げたことである。具体的には運転手の木目細かなサービス、大変丁寧な応対姿勢などで、最初に利用した時には自動ドアでないことに戸惑ったが、後でわかったことは運転手が降りてきて手動で開閉してくれるサービスなのである。日本のタクシーの中にはどっちが客かわからないような横柄な運転手が少なからずいる中で、新しいサービス文化を創造し成功に導いている。まして業界料金より安く設定していることから、タクシー業界が不況の中でも元気が良い。

 大阪で起業した行列のできるお菓子店「モンシュシュ」の金美花社長も熱く語ったが、目線はあくまでお客の満足度に置いている。味もさることながら他とは違う魅力を提供することで相乗作用も効くのであろう。

 東京外語大で准教授を務める趙義成氏の「ハングルの誕生と変遷」を、帰りの飛行機の時間の関係で前半だけ聴講したが、ハングルの歴史と成り立ちに詳しくない私にとってはとても新鮮な講義であった。聴講者の皆さんにもさぞかし有意義だったことだろう。

 5世紀半から6世紀頃の三国時代に成立したとされる表記法で、名詞や動詞などの実質的な部分は漢字、助詞などの文法的な部分は朝鮮語に古くからある固有の語彙である史読(りとう)、古代朝鮮の詩歌である郷歌を表記するのに用いられた表記法の郷札(きょうさつ)、漢文の途中に挿入する助詞である口訣(こうけつ)に代表されるハングル以前の朝鮮半島の文字生活から始まり、ハングル創製の動機や反対勢力など、そして現代のハングルへの変遷は歴史と共に歩んできた韓国文化そのものであり、通常の韓国語テキストには出てこない一面を学習することで韓国語への関心も高まった。言葉の文化は国の歴史や考え方を表現する手段でもあり、言語から紐解く国の発展を理解することも必要だ。

 今回の講演を通じて、私自身も多様な韓国文化や歴史に触れることができ有意義であったこと、そして韓国と日本を結ぶビジネスモデルはまだ発掘代がたくさんあるとも感じた。このような研修の場を通じて、お互いが相互に刺激し合いヒントを得ながら新しいアイデアが生まれてくるものと考える。


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