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2009/10/16

<オピニオン>相互依存の韓日関係                                                                               ~東アジア共同体の実現に向けて~                                                  大東文化大学 永野 慎一郎 教授

  • 大東文化大学 永野 慎一郎 教授

    ながの・しんいちろう 1939年韓国生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。英シェフィールド大学博士課程修了。現在、大東文化大学経済学部教授、同大学大学院経済学研究科委員長。

 東アジアにおいて政治・経済面で中心的な役割を担っている韓国、日本、中国。昨年からこの3国間で年1回、各国持ち回りで首脳会議が開かれている。今年は北京で開催され、長期的な目標として東アジア共同体の発展と地域協力の強化が唄われた。3国によるFTA(自由貿易協定)締結が共同体形成の第一歩になると主張している永野慎一郎・大東文化大学教授に寄稿していただいた。

 1993年12月、上海で開催された国際会議において、東アジアの平和と安定のための方策として、東アジア地域の中心的な役割を担っている日本、韓国、中国の首脳会談を定例的に開催すべきであると提案したことがある。筆者はそれ以来、機会ある度に主張してきた。当初は、アイデアはいいけれども、実現不可能であるとマスコミ関係者にからかわれたことを今でも鮮明に覚えている。理由としては、米国が認めないだろうから、米国の意に反するようなことを日本がするわけはない、ということであった。

 金泳三(キム・ヨンサム)大統領時代、大統領の通訳担当秘書官を務めていた朴振(パク・ジン、現ハンナラ党国会議員、外交通商統一委員長)に青瓦台で会って外交政策について意見交換した時、金泳三大統領に伝えて欲しいと意見を述べたことがある。東アジア共同体構想を考えるべきである。その実現のために日中韓首脳会談を定例的に開催する。持ち回り開催することで相互訪問ができる。首脳間の訪問は民間交流の促進剤となり、相互理解を深めることに役立つ。経済や環境問題など非政治的問題から議論を始める。3首脳が会うだけでも多大な効果がある。韓国が提案すれば、日本も中国も受け入れ易いと説明したら、朴振秘書官は「それは可能性があります」と答えた。当時、日本の総理は社会党の村山富市だったので、金泳三大統領と村山総理は親近感があり話しやすい。早速大統領に伝えますといいながら、実はそれ以前に日中韓3国首脳が会ったことがあると教えてくれた。1993年11月、米国シアトルにおいて、初のAPEC非公式首脳会議が開催されたとき、日本の細川護煕総理と江沢民・中国国家主席、金泳三・韓国大統領の3首脳がパーティーの後、バルコニーに上がって、偶然に3人が顔合わせしたというエピソードを紹介してくれた。

 3首脳の顔合わせを実現したのは、各通訳担当の秘書官たちの策略であった。当時米国は、日中韓3国首脳だけ会うと何か企んでいるのではないかと神経質であったから、偶然に出会ったような形をとった。当然ながら、事前に首脳たちの了承を取り付けてからの行動であって、秘書官たちが勝手にやったわけではない。江沢民主席が口火を切り、「我々が話をすると通訳をしなければならないし、理解するまで時間がかかる。しかし、漢字で書くとすぐ分かる。漢字という便利なものがある」と言ったら、他の2人の首脳も「そうだ」と言って意気投合し、漢字共通化についてそれぞれ研究しようということになった。

 日中韓首脳会議は、故小渕恵三総理の提唱で、1997年から東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせて年1回開催された。マニラで行われた第1回会議は、小渕恵三総理、朱鎔基首相、金大中大統領が出席し、3国共通の文化・歴史・伝統・経済問題などが話し合われた。2005年は当時の小泉純一郎総理の靖国神社参拝に中韓が反発し、中止となったが、2007年1月に再開し、同年11月開催の第8回首脳会議で、次回の議長役の福田康夫総理から、それまでASEAN+3(日中韓)首脳会議のついでに行われていた日中韓首脳会議を次回から独立した形で年1回、各国持ち回りでの開催を提案し合意された。福田元総理の突然の辞任で、麻生太郎前総理主催の第1回日中韓サミットが福岡で開催された。

 第2回日中韓サミットが10月10日北京で開催され、温家宝首相、鳩山由紀夫総理、李明博大統領の3首脳によって「日中韓10周年記念共同声明」が発表された。日中韓首脳会議は、今回10回目を迎えた。その間の実績を踏まえ、第9回目から3国だけの持ち回り開催となり、成熟した首脳会議となった。北京での首脳会議では、長期的な目標として東アジア共同体の発展及び地域協力に引き続きコミットするとし、「歴史を直視し、未来に向かうとの精神の下、3カ国は潜在性及び協力分野を探究する」と合意した。そのために、①政治的相互信頼の強化、②共益の協力の深化、③人と人の交流の拡大、④アジアの平和、安定、繁栄の推進、⑤地球規模課題への積極的対応を行うことを決定した。

 これらのテーマを、今後どう実現していくかが課題となる。鳩山総理が述べたように、互いに相違を認め合いながら一歩一歩積み上げていくことが重要だ。

 首脳会議に合わせて、北京で日本経団連、中国国際貿易促進委員会、韓国全国経済人連合会による日中韓ビジネス・サミットが開催され、日中韓のFTAの推進などを宣言した。

 日中韓3国のGDP合計は世界の16・7%、3国の貿易額も世界の16・7%である。3国間の貿易の割合は非常に高い。互いに主要貿易相手国である。日韓貿易は韓国が赤字、韓中貿易は中国が赤字、日中貿易は日本が赤字。3国のFTAが推進されれば、日中韓3国はトライアングル関係なので3国全体でみれば、誰も損しない相互依存の関係である。日中韓首脳会議の進展は東アジア共同体に向けての第一歩である。【完】


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