韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。
この10月14日から韓国ではイ・ビョンホン、キム・テヒ主演のテレビドラマ「アイリス」の放映が始まった。視聴率は30%以上を維持し展開は後半へと移りつつある。12月中旬に放映が終わり、日本では来年の4月からTBS系で放映される予定になっている。本年5月にソウルで行われたこの制作発表会の様子を、6月の本連載記事第50稿で紹介した。
韓国のテレビドラマは一般的にラブストーリーが多く、女性は見るが男性はあまり見ていなかったという中で、今回のドラマは韓国と北朝鮮の統一に向けて秘密工作員の主演らが織り成すアクションもあって、今までにはない新たなドラマと言える。その結果、男性も愉しんで見ているというところにこれまでの差があるという。その分、視聴率が向上していることに繋がっていると思われる。
全20話のうち、上海やハンガリーが舞台となり、更に冬の日本の雪景色が必要とのことで秋田が選ばれロケの拠点となったが、秋田を舞台とする3話分は10月中に放送が終わり大変な反響を呼んでいる。
韓国人にとって北海道以外は日本の雪景色には関心がないであったろうが、今回のドラマがきっかけになって「秋田の景色が素晴らしい、尋ねてみたい」という声があちこちで起こっていてブームとなっている。
冬場の新型インフルエンザの拡大と警戒の中、日本各地への旅行客の出足は鈍く、旅行業者も弱音を吐いている一方、秋田へのツアーの問い合わせや申し込みが急増していると言う。
既に韓国の旅行会社が秋田ツアーを企画しているが、問い合わせと申し込みが急に増えて、旅行会社もその状況に驚いているようだ。
実際に映像で放映されるとその情景が鮮明に刻まれるが、特に様々なシーンがマッチするとその効果は絶大である。秋田を代表する男鹿半島、阿仁の山々、日本一深い湖の田沢湖、その山頂に位置する乳頭温泉郷、そして重要無形文化財となっている「なまはげ」、これは厄払いの伝統文化であるし、水神様を奉る雪むろで作る「かまくら」等々。今まで地元や近隣では有名でも、日本の中でも知れ渡っていないのも実情である。
そんな秋田の文化を宣伝してくれているのが「アイリス」である。これだけ効果の大きな宣伝手法は滅多にない。「かまくら」は真冬の凍てつく雪国のとても心地よい伝統行事だ。「アイリス」のロケに、この「かまくら」は元々計画されていなかったが、筆者と韓国人コーディネーターの働きかけでロケ地として横手城と「かまくら」が採用された。
主演同士がこの「かまくら」を背景にデートする重要な場面に活用され、意味のある風景として放映されたのである。やがて世界30カ国以上で放映されることになるから、秋田の冬はこれから活気付くと思われる。
是非、韓国の人達に直接秋田を見てほしい。週3回の直行定期便があるので搭乗率向上にも繋がる。日本文化も地方ごとにまちまちであるだけ魅力も多く、これが起点になって周辺の東北も韓国客で賑わってほしいと思う。
さてこの「アイリス」の放映が年末に終わってもそれで終わりではない。なんとこの横手の「かまくら」を「出前かまくら」としてソウルに連れて行くイベントが決まっている。2010年1月22日から24日までの期間、光化門周辺でこの本物の「かまくら」が姿を現す。ドラマ放映直後にこのような形で実現することは実にタイミングが良い。良すぎる。
この発案は2008年7月、筆者が横手市長に提案したのがきかっけで南大門復興に向けたイベントとして文化交流を行い、国宝復興工事を応援しようというアイデアから出発した。
本年2月の本連載第46回でその考えを紹介したが、「かまくら」が水の神様を象徴する意味をもっていることから、放火で消失した南大門を守ろうという意図にある。
来年1月のソウルでのイベントが終わると2月中旬には横手での「かまくら」本番行事へと続く。すなわち、「アイリス」、「出前かまくら」そして横手の「かまくら」行事と毎月のように関連したイベントが国を越えて連携される。
韓国で放映されたドラマの秋田のシーンを、つい最近、私自身一部始終を先んじて見ることができた。それはこれまでの秋田がこんな魅力をもっていたのかという新たな発見と驚きである。
これを機会に日本はもちろん、韓国内に秋田ファンが増えることを期待する。そして更にはお互いが持っている素晴らしい食文化の交流を韓国と秋田で相互にできれば、永続的な交流が実現する。
ドラマの抜群の宣伝効果に感謝することは当然であるが、それだけでなく、そこからまた大きな新しい次元で文化交流が始まることで、本当の「アイリス」効果と言えるだろう。そのためにも冬の秋田と冬の行事を、ソウルと秋田で韓国の人達に是非直接味わっていただきたいと願っている。