「一般財団法人 高円宮記念日韓交流基金」の第1回顕彰式が10日、韓国文化院で行われ、韓日の4団体を顕彰することになった。同基金は、2002年に韓日共催で開催されたサッカーのワールドカップを契機に、皇族として初めて韓国を公式訪問された高円宮殿下の遺志を受けて昨年12月に設立された。教育・文化・スポーツを中心とした青少年の草の根交流を支援することによって韓日の友好関係を増進することを趣旨としている。名誉総裁の高円宮妃久子殿下に基金設立の意義などをお伺いした。(朴恵美本紙社長、金時文編集局長)
――「一般財団法人 高円宮記念日韓交流基金」の設置経緯および目的をお聞かせください。
以前、羅鍾一・元駐日韓国大使から、宮様のお名前を冠にした財団をつくって教育、文化、スポーツなどの分野における草の根交流を顕彰することは日韓関係を構築していくうえで良い役割を果たすのではないか、とご発案をいただきました。
実際どのような仕組みをつくるのかについて、羅元大使が「愛・地球博」の時に政府のコミッショナーを務められた渡辺泰造元大使にお願いしてはいかがかということになりました。渡辺元大使は非常に韓国のことも理解されています。いろいろな方のアドバイスもいただきながら、韓国側から6社、日本サイドが7社に参加していただくこととなりました。
東レ社長の榊原さんが2002年のサッカーワールドカップ日韓共催の時に、私どもと同じようにソウルでの開会式を観覧され、その時の宮様の御姿や両国の旗が一緒になって入場してきた時の感動、感激を共有して下さっており、とても積極的に動いてくださいました。いろいろな場面でリーダーシップをとってくださったことに心より感謝しております。
今回初めての顕彰式を行うことになりましたが、財団の事業について、皇族として戦後初めて韓国を公式訪問された宮様の思いやワールドカップの前後に東洋経済日報のインタビューでも述べていらしたご自分の韓国に対してのお気持ちを反映していく組織ができて、そこでの事業が着実に回を重ねていくことが大事だと思います。
――財団の構想から実現まで長い時間がかかったとも言えますが。
おいそがしい中、企業の方たちが、時間をかけて一番いい形を模索してくださいました。ワーキンググループをつくって、頻繁にミーティングを重ねてこられました。
この財団の一つの特徴は、この財団の設立の意義に賛同してくださった企業による民間レベルの組織で、助成金もどちらの国からも頂いておりません。顕彰事業も、できる限り草の根の地道な活動を探し出して、意義あることとして励ましていきたいと考えています。
――宮様の冠がついていますが、民間ベースの財団となるのでしょうか。
宮様のお名前が付いていますが、民間ベースの財団です。これは政府のものではありません。「国」とは多くの人間から成り立つものであり、民間同士の有意義な交流を宮様のご遺志をついで推進する団体に宮様のお名前がついている事は、とても喜ばしいことです。国と国の交流は政府同士のものだけを意味するのではなく、人と人の交流がその根底にありますので、むしろ民間ベースの財団であるところが良いのかもしれません。
――高円宮という冠をつけて、韓国という特定の国を対象にした財団は初めてだと思いますが。
はい、初めてです。
――今回の初の顕彰式では日韓の4団体が顕彰されます。選定ポイントをお聞かせください。
今回が初めてですから、まず多くの候補が挙がってきたこと自体が嬉しかったです。どのような候補があるのかというレポートは全部読ませていただきました。選考委員の方々には、長時間いろいろ協議しながら顕彰者を選んでくださったと聞いています。お忙しい中、難しいお役目を引き受けてくださった素晴らしい選考委員の先生方には心より感謝しております。
――2002年の韓日サッカーワールドカップで、両殿下が皇族として初めて訪韓されてから7年。両国の友好親善に大きな役割を果たされてきましたが、どうお考えですか。
こういうものは目に見えるものではないので、なかなか判断しにくいところはあると思いますが、少なくとも私どもが2002年に韓国に行って良かったと思います。あの時は、宮様がホテルの部屋で誰とも会わないで過ごしている時間がもったいないとのお考えで、外に出れば、皆様と何らかの形で交流が持てるのだから、そういう時間を大切にして外に出よう、外に出ようと随分おっしゃっていました。
その時の宮様のお気持ちは、お会いした方には伝わっていると私は信じています。特に、釜山で魚市場の建物から出て来る時に、「また来てね」と言っていただいたのは、とても嬉しかったです。そういう気持ちでいらっしゃる方が他にもいらっしゃるとすれば、それはとても嬉しいことですし、今回この基金ができて、またその頃の思い出を皆様で振り返っていただければいいと思います。
今後在日の方が果たす役割はますます大きくなっていくと思います。最近は通名ではなく本名を使われる方が増えたようですが、とても喜ばしいことですよね。次の世代には自然に仲良く友達として育ってもらいたいものです。
――今後、再び韓国を訪問される計画などはありますか。
また何かの機会に伺いたいですね。実際に2002年以降、多くの方が頻繁に行き来していらっしゃいます。日帰りで訪れる方もいらっしゃるようですし、お仕事で年に何回も行き来されている方もずいぶんと存じ上げています。是非、いつか訪韓をまた実現できればと願っております。
――今年9月に「日韓交流おまつり」が東京とソウルで初めて同時開催されるなど、若者をはじめ両国民の交流の輪も広がっています。現在の日韓関係について、どのようにご覧になっていますか。
頻繁に行き来する方が多くなったということも含め、自然体になってきたような気がいたします。人間の関係というのは、一つの家族の中でもそうですが、実際に会話をして、接触して、意見が合わなくて、喧嘩して、泣いて、ということを重ね、絆がどんどん強くなっていくものです。お互いにお行儀よくしているのも大事だし、親しい仲にも礼儀ありですが、それを踏まえたうえで一緒に過ごす機会をふやし、回を重ねて、一緒に何かを作り上げていく機会は多ければ多いほど良いと思います。そのようにして絆は強めていくものではないでしょうか。
今は例えば、劇を一緒にやるとか、映画を一緒に作るとかいうような試みも多々ありますし、今回の交流おまつりのように一緒に何かを作り上げるといった、いろいろなレベルでの交流の蓄積が両国の関係を密にしていきます。
あくまでも国というのは、個人と個人で作り上げられているものなので、個人同士の交流が多くなるほど両国間の関係は必ず良くなっていくと思います。常識的に考えれば、人間関係において国境とは関係ないはず。すごく気が合う韓国のお友達もいれば、難しい韓国のお友達もいて、逆に難しい日本のお友達も、すごく気が合う日本のお友達もいる、というのが普通でしょう。交流は人間関係を構築する上で大切ですから、回数はどんどん増やしていくことが大事だと思います。
最近ではネットも普及していますから、若い世代はいろいろなコミュニケーションのやり方で関係を作っていけば良いと思います。問題点は必ずどんな関係でも出てきます。お隣同士なのですから、問題点は解決していくしかありません。ここで大事なのはお互いに対し敬意をもってその考えを尊重することと、その問題点をなんとしてでも良い方向に解決したい、という気持ちです。プラス思考で進めていけば、自ずと解決していくような気がいたします。
――この財団は、日韓交流促進の志半ばで終わった高円宮殿下のご遺志で発足したと聞いていますが、妃殿下の今後の抱負についてお聞かせください。
財団ができて確実に結果を出しているものに宮様のお名前がついているということで、皆様からご覧になっても、宮様のご遺志を継いでいると考えていただけるのではないかと思います。それをまた一つのきっかけとして、今後も出来る限り両国間の交流には、私自身が関係できるところで自分に見合ったレベルを見極めながら進めていきたいと思っています。
――今後の課題として、どのような形で、この財団を育成、発展させていきたいとお考えでしょうか。
最初にあまり派手に展開するよりは、着実に評価を得た上で育っていくことが大事だと考えています。広がりを持つことや、より多くの企業が関わってくださるのも大切なポイントだと思っていますが、この財団の存在そのものに大きな意味があるのではないでしょうか。日本でも韓国でも、そういう宮様がいらっしゃったんだと思われることが大事だと思うのですね。
今後の方向性としては、しばらくは顕彰を中心に進めていき、助成はその後、もう少し時間が経ってから始めればいいことなのではないかと思っています。
――妃殿下はさまざまな団体の名誉総裁を務めていますが、この財団には特別の思い入れがおありではないでしょうか。
この財団に関しては設立当初から関係しているということや、宮様が国際交流というものがいかに大切かを常におっしゃっていたことを思うと、確かに思い入れはございます。
――最後に本紙の読者をはじめ、両国国民にメッセージをお願いします。
2002年のワールドカップに宮様と韓国を訪問して、宮様のお名前を冠にした日韓交流財団が設立されました。今回初めての顕彰式となりますが、これからも是非皆様には温かく見守っていただいて、今後の日韓関係のために皆で一緒に育てていく財団にしていきたいと思います。
◇◇ 選考委員メッセージ ◇◇
◆「草の根に光を当てる意義」―― 東京大学 小田島 雄志 名誉教授
選考過程で、日本と韓国の間で様々な草の根活動があることを知りました。この基金は社会の様々な分野で活動している人々や団体に光を当てて顕彰することに意義があると思います。昨年、日本の主な演劇賞を総なめにした日韓合作演劇「焼肉ドラゴン」の選考にも関わりましたが、社会の隅々で活動している人たちに焦点を当て、多くの人に理解してもらうことが大事だと感じました。この基金がスポーツ・芸術・文化など、社会のさまざまな分野で活動している人や団体を顕彰して、日韓交流に貢献されることを願います。
◆「刺激となり新たな交流を」―― 日本サッカー協会 川渕 三郎 名誉会長
2002年日韓ワールドカップが開催された時、高円宮殿下が日韓関係を「近くて遠い国から、近くて遠くない国になった」とお話しされたように、大会を機に両国の関係が深まりました。色々な国際交流がありますが、この委員会は草の根の交流を評価しようとしており、意義深いと思います。候補を4つに絞るのは難しい作業でしたが、ワールドカップの前からも交流が育まれていたことを知り、嬉しく思いました。この顕彰が多くの人々に知られ、それが刺激となって新しい交流を育んでいくことを願います。
◆「大きな輪をつくる契機に」―― 慶應義塾 安西 祐一郎 前塾長・学事顧問
この基金は、高円宮妃久子殿下はじめ多くの方々の熱意と努力によって生まれた日韓両国を結ぶ大きな架け橋です。日韓ワールドカップの時に訪韓された高円宮殿下ご夫妻の温かいお気持ちがこの基金に表れています。第1回顕彰は、江戸時代の日朝外交に尽力した雨森芳州ゆかりの交流事業をはじめ、地域交流、高校生交流、障害者スポーツ交流などに努力して来られた4グループが受けますが、感銘を受けるものばかりでした。選に洩れた交流事業も顕彰に値するものが多く、選考に苦労しました。基金の活動がさらに大きな輪を作り、国境を越えた交流が進むことを願います。
◆「両殿下は両国民の心の絆」―― バイオリン製作者 陳 昌鉉 さん
東洋経済日報の扉を開くたびに拝見する両殿下は、両国民の心の絆のような思いがします。顕彰を受ける団体、残念ながら選にもれた方達も両殿下のお心に沿うべく、今後も日韓文化交流の発展に精進されることを願っております。先日、高円宮妃殿下の赤坂御所に私共関係者全員がご招待を受け、激励のもてなしを受けました。妃殿下は私がバイオリン製作者と知って、御子様が愛用されているバイオリンをご用意され、私にコメントをお求めになりました。妃殿下は大変、子煩悩な方で心優しい母親の一面が印象に残りました。今後も日韓文化交流の一役を担っていきたいと思います。
◆「若者は隣国の歴史学ぼう」―― 元プロ野球選手 張本 勲 さん
皇族の方が日韓の友好交流を進めたいというお気持ちでおられることは喜ばしいことであり、われわれ韓民族としても大歓迎です。日韓の歴史には悲しいこともありましたが、これを機会に近くて近い関係になるよう努力していきたいと思います。両国間で多くの団体が交流していますが、さらに交流を深め、日韓のために頑張っていただきたいと願っています。若い世代に願いたいことは、日本人は韓国の歴史を、韓国人は日本の歴史を勉強してほしいと思います。基金が交流拡大のきっかけになると期待します。
◆「未来指向の日韓関係を促進」―― 東京大学・情報学環 姜 尚中 教授
高円宮記念日韓交流基金が正式に発足したことは、韓日の新しい時代にとって、意義のあることだと確信しています。高円宮妃殿下には1年半ほど前にお会いしたことがありますが、韓日友好について深く考えていらっしゃったことが、印象に残っています。来年は、「韓国併合100年」という節目の年になります。基金の目的である「日韓パートナーシップに基づく教育・文化・スポーツを中心とした交流を顕彰・助成し、未来志向的な日韓関係を構築する」ため、この交流基金がさらに発展することを願ってやみません。