韓国経済は、四半期ベースのGDP成長率が1年ぶりにプラス転換し、景気回復傾向を示している。ところが旧態依然とした韓国社会のさまざまな対立構造は経済にも大きな影響を与えている。韓国の社会葛藤指数は0.71で、OECD平均の0・44を大きく下回る。韓国社会の混乱の原因と課題について、笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。
韓国の不況回復勢が本格化してきた。韓国銀行の「2009年第3四半期国民所得(暫定)」によると、第3四半期の対前年比実質GDP成長率が1年振りにマイナス成長から抜け出しプラス0・9%となった。分期毎の変化を表す対前期比のGDP成長率は、08年第4四半期のマイナス5・1%を底に09年第1四半期0・1%、第2四半期2・6%、第3四半期3・2%と四半期ごとに成長率を高めている。民間消費と設備投資が回復してきたことで在庫投資も減少しており、製造業と市場の大きなサービス産業が盛り返してきたことに起因している。政府は来年度の成長率に関し、ドバイショックによる不透明な原油価格変動など不安要因は残るものの、この回復傾向の延長線上での5%前後と予測している。
ところで、マクロ経済指標では景気回復傾向を示してきているものの、経済的要因に大きな影響を与える社会的要因は厳しい状況にある。具体的に言えば、社会的葛藤が国家運営に負の作用をもたらしているということである。社会的葛藤とは、社会心理学で使われる用語で、葛藤には個人的葛藤と社会的葛藤に分けられ、前者は複数の要求が同じ強度で存在し、どの要求に応じた行動をとるのかの選択をできずにいる状態で、社会的葛藤とは、複数の個人や集団、また組織や国家の間で対立する目標を持つために、利害の対立や緊張状態にある状況を指す、とされる。ここでは社会的葛藤が強いことが国家の安定性、発展性を阻害すると考えられる。経済発展過程における社会的葛藤の増大は、合意を形成する調整機構としての民主主義を希求し、最適合意に至るとされる。韓国も1987年の民主化以前はこの社会制度が権力に押さえられて機能しなかったが、その後経済発展とともに社会的葛藤が一挙に増大したため、この調整機能発展が追い付かず、政権の独裁的調整機能で処理する習慣はそのまま残った。社会的葛藤を最適合意形成に導く民主的メカニズムが遅れたのだ。
社会的対立構図は、韓国社会の選択を不確実にするとともに、さまざまな国家的選択が最適合意に至らなかった。その背景には民主主義を支える国家機構、例えば公正な司法機構、国民の信の利益を実現する国会制度、科学的真理を追求する大学および教授陣、独立的なメディア等が強固に確立されていないためそれらの中で社会的葛藤が最適合意を得られないのである。これらの諸機構が強固に民主主義を支えていなければならないのだ。
サムスン経済研究所の研究によると韓国の社会的葛藤指数は0・71であり、これはOECD平均の0・44を大きく上回り、社会的葛藤が深刻なことを示している。この研究の社会的葛藤指数は、所得不均衡(ジニ係数)、民主主義の水準(Polity Ⅳの民主主義指数)、政府の効果性(世界銀行の政府政策の効率性指数)を使用して算出され、所得不平等の度合いが高く、民主主義の成熟度と政府の政策遂行能力が低いほど数値が大きく表れる。
スイスのジュネーブの世界経済フォーラム(WEF)の「09年国家競争力評価結果」によると、韓国は評価対象133カ国中19位で、06年の23位から07年の11位に上昇したものの、08年に13位に下落、09年も前年に続いて順位を下げた。
こうした国家の弱体化は、経済発展の背景にある社会的葛藤の強さに依存し、その基底には自己主張が強く調整機能の弱い韓国の国民性にも依存すると考えられる。最近の問題でいえば、世宗市修正推進問題に対する社会的な葛藤と混乱、鉄道労組の無期限ストライキ、すでに通過したメディア法を原点に戻し、再論議を求める民主党議員の国会議長室での座り込み、国会法の手続きを無視し自らの主張を貫徹するような事件など社会的葛藤を合意する民主主義的装置が弱化している。韓国社会の混乱は経済発展の障害にしかならない。したがって国家、中間組織、国民ともに社会的葛藤の合理的合意を形成する強固な民主主義的装置をいち早く作り上げなければならない。