韓日間の経済交流が活性化する中、海を越えて韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。日本と似て非なる韓国社会や企業文化に接し、彼らは何を感じ、隣国をどう評価しているのだろうか。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任した佐藤登さんの異文化体験記をおとどけする。
3月中旬に大阪で組織されている研究会の講演会に講師として招かれた。この会の趣旨は主に会社経営者の異業種交流の一環で、定期的な研究の場として交流会を頻繁に行っており、まずはその活発な活動に感心した。
今回は元気が出る話をという依頼であったので、これは簡単なことではないのだが、今後成長するだろうエネルギー産業と事業についての話をさせていただいた。この領域は韓国、日本、米国など世界各国がグリーン・ニューディールと言う形で国をあげて特に力を入れる分野でもあり、また私自身が社内でその戦略作りを担当している関係もあって話しやすかったことにもよる。3月初旬の本誌面で「エネルギー保全と戦略」として記述した記事も講演のテキストのひとつとして活用した。
講演に対し興味深く聴いていただいたこと、「今後の新エネルギー展望」、「環境自動車の行方」、「韓国文化と日本文化の違い」など、多くの多岐にわたる質問もいただいいたことで関心の高さを実感するとともに有意義な時間を共有できたと考えている。
講演終了後の懇親会でも多くの方々とお話したが、経営者の立場で真剣に会社運営に心血を注ぎ込んでいる情熱が伝わってきて、参考になったとともに身が引き締まる想いをした。ましてや世界同時不況の折り、各経営者が会社と社員のために本当によく考え、社員を家族のように熱く語る姿は韓国の儒教精神に通じるような感じであったが、経営者と社員とが一体になれば、その総合力でこの難局も乗り切れるのだろうと実感した。
元気を提供するはずの講演だったが、そんな議論を通じて逆に会員の皆様方から元気を戴いて来たようなことになった。大阪の元気と韓国の元気の質はなんとなく似ている部分があると思う。熱く語り、議論し、感情もはっきり示す気質のようなところである。大阪には在日韓国人が多いが、韓国人が日本で生活するにはもっとも適した地域のひとつでもあるようだ。
一方、韓国以外に在住する海外韓国人を対象とする社団法人がソウルに本部を構えている。この組織は韓国と海外各国の貿易促進などを通じて世界的なビジネスネットワークの構築を目的にしている経済団体で、韓国政府の知識経済部の支援で運営されているが、ここからの依頼で本年7月に大阪で講演することになっている。
内容としては「次世代貿易スクール」と呼ばれるセミナーで、毎年定期的に開催されているらしいが、これも異業種交流的な活動機能を有している。講師も韓国人を始め、韓国に詳しい教授や専門家が数名対応するが、私が依頼を受けた背景には本誌の連載記事に興味をもっていただいたことによると聴き、これは記事を配信している立場としては嬉しいことである。韓国人だけを対象とした講演は会社以外には無かったので、どんな反応や関心があるか、そしてどんな議論ができるのか楽しみである。
私自身のこれまでの企業人生活でも、異業種交流には積極的に参加してきたし今も興味は尽きない。それは交流の場から多くのヒントや元気をもらうことが少なくないからである。ひとつの組織では考え方や行動様式、アイデアなどが同質になりがちであるが、異業種交流の中ではまるで発想もできなかった考えやアイデアが生まれることがあるからだ。それが発展すれば新たなビジネスモデルを創り上げる可能性にもつながる。
ビジネスの世界では社会から求められているもの、その期待あるいは期待以上のものが製品や文化として提供できたときに社会から受け入れられ発展を遂げる。逆に、企業の一方的な押し付けの代物では社会から拒絶され持続可能とならない場合が大半だ。
経営陣、技術陣、新入社員の枠に囚われず、社会を客観的に分析することは極めて重要である。そのためには特に業務と直結する関係者以外に、違う世界のものの見方や考え方に触れ、積極的に議論し交流する関心力と行動力が、やがては自身への大きな力となって跳ね返ってくるような気がする。