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2009/05/01

<オピニオン>韓国の車社会                                                                  サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • 韓国の車社会

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から48回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、海を越えて韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。日本と似て非なる韓国社会や企業文化に接し、彼らは何を感じ、隣国をどう評価しているのだろうか。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任した佐藤登さんの異文化体験記をおとどけする。

 4月上旬は車での遠出が多かった。第1週の土日には水原で午前中会議を終えた後に、全羅南道の珍島と木浦まで出かけたし、翌第2週には同じく会社から慶尚南道の大邱までを日帰りで往復したからである。大邱まで出かけた理由は、ここでグリーンEXPOという環境とエネルギーに関する大きな展示会があり、弊社も出展していたために視察したからである。特に弊社は今年から、サムスングループを代表するエネルギー会社への転換を図ったため、力の入れ方もひとしおで、リチウムイオン電池や太陽電池、燃料電池に至るまで展示した。日本でもこのようなショーケースには多くの観客が訪れるが、今回の韓国でのEXPOにも例年以上の見学者が訪問したとのこと。

 帰りがけ、市内にある漢方薬の素材を扱う専門問屋が700㍍の長さで立ち並ぶ薬令市があるのを知ったので、そこを散策してみたが、独特の香りが漂う中、両側にぎっしりと立ち並ぶ店の姿は似ていながらも少しずつ異なっていて、朝鮮王朝時代に由来する歴史と伝統を感じさせる通りである。

 さて珍島と木浦であるが、珍島はこのシーズン「神秘の海割」として観光客で賑わう場所でもあり、それこそ神秘的な観光地であったので一度は行きたいと思っていた。日本でも「珍島物語」という歌で一躍有名になったが、まず行ってわかったことは車でないととても思うように移動できないこと、途中の街路には桜並木が続き、美しく溶け込んでいること。当日は海割れに当たる日ではなかったので神秘の現象は見られなかったが、これを見るためにやってくる車の渋滞を想像しただけでぞっとした。

 珍島を後にして木浦へ戻り、夜はアワビ料理に舌鼓を打ち、翌日は最終駅である木浦駅周辺から儒達山へ。山といっても228㍍しかない公園のようなものなので、頂上まで行き木浦港と市街を眺め渡し帰路に着いた。

 そこから盆唐の自宅まで帰る途中の全羅北道の群山(戦前に日本や中国に米を搬出していたため「米の群山」と称され、日本人も多く住んでいた)は中間地点なので、この漁港に立ち寄って旬のチュクミ(卵の入ったタコ)を食しというところまでは全て良かったのだが。

 問題は群山から盆唐へ戻る途中の大渋滞。交通情報によると、近くを走る西海岸高速道路は通常の渋滞に事故も重なって既に大渋滞しているとのことだったので、ここを避けて 益山から大田へ抜ける高速道路の方へ走ったのだが、これまた途中から自然渋滞が始まり、結局、そこから水原までの大渋滞の中を帰る破目になった。群山からだと渋滞しなければ2時間くらいの距離なのだが、この日は5時間もかかる結末になった。

 途中で気が付いたのは、所々にある料金所では10箇所ほどもあるゲートにハイパスゲート、すなわち日本のETCレーンが無い所があって、これがまた渋滞を増幅していた。IT文明が先進諸国でもトップであるのに、高速道路でのIT普及が進んでいないのにはギャップがある。ハイパスレーンをもっと増やすことで渋滞緩和にもつながるはずだ。このような状況はまだあちこちにあるので早急な対応が望まれる。

 日本の渋滞も結構深刻で、渋滞によって生じる経済損失は数年前まで年間13兆円にも至るとされ、渋滞緩和のための政策が徐々にとられてきている。韓国の高速道路の料金は日本に比べてかなり安く、器興から木浦までの340㌔を走行しても1000円強というのには驚くが、休日の渋滞の凄まじさには驚き以上の疲労を感じる。

 韓国では都市間を結ぶ公共交通機関が日本ほど発達していないので車社会になるのは致し方ないが、それだけに渋滞緩和のための政策や交通システムなどの工夫が必要と思われる。

 高速道路や一般道の増設というハード面の対応ももちろん必要であるが、ラジオから流れる渋滞情報発信の場合には行き先に応じた推奨ルートの案内、あるいはナビゲーションシステムや携帯電話からの目的地の入力によって、その後に予想される渋滞状況を把握して目的地までの最適なルートを表示してくれるソフトシステム開発などの必要性を感じる。IT国家が世界に先駆け、渋滞緩和交通システムを創り上げると、その効果は絶大である。


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