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2010/11/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第10回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第10回

◆新規産業振興と雇用が課題◆

 銀杏の葉が鮮やかに色づく季節は、来年の経済あるいは暮らし向きがどうなるかが話題になる時期でもある。

 韓国が主要国に先駆けて、リーマンショック後の景気の落ち込みから回復したことはよく知られている。2010年1―9月は前年同期比6・5%になった。成長への寄与度は、輸出が6・3%(輸入マイナス7・0%)、総資本形成4・7%、民間消費2・4%となったように、これまでの回復は輸出の急速な持ち直しによるところが大きい。「輸出が成長を牽引した」という点では、韓国企業が進めてきたグローバル化の成果が表れたといえる。同時にこのことは、今後の輸出動向が景気の行方を大きく左右することを意味する。

 実質GDP成長率が1―3月期に前期比(以下同じ)2・1%、4―6月期1・4%、7~9月期0・7%となったように、景気の回復力は低下している。とくに輸出(財・サービス)は4~6月期の7・2%増から7~9月期に1・7%増へ著しく増勢が鈍化した。この要因としては、これまでの急速な持ち直しの反動に加えて、世界経済の減速がある。一時期輸出回復の牽引役となった対中輸出は、「家電下郷プロジェクト」の実施本格化に伴う輸出誘発効果の剥落や中国の成長減速などにより、最近ではほぼ全体並みの伸びとなっている。

 では、来年はどうなるのか。経済成長率が米国で2%程度、金融不安が払拭されないEUでは1%に達しないと予想されるため、先進国向け輸出の伸びは今年をかなり下回る可能性が高い。他方、新興国に関しては、①中国とインドで8%以上の高成長が続く見込みであること、②資源価格の高騰が資源国にプラスに作用すること、③「中間層」の増加を背景に高い消費の伸びが期待されることから、新興国向けの輸出は比較的高い伸びになるものと考えられる。韓国企業による新興国市場の積極的な開拓や半導体、液晶パネルなどにおける価格競争力の強さに加えて、ウォンの上昇が一定程度に抑えられていることも輸出の拡大を後押ししよう。また日本の携帯電話や家電市場において、サムスンやLGエレクトロニクスなどの韓国製品がどの程度販売を伸ばせるのかも興味深い。

 他方、民間消費の動向をみると、7~9月期は4~6月期を上回る前期比1・3%増となった。自動車販売は昨年末に終了した買換え減税の反動が懸念されたが、新車投入効果もあり1月から10月までの累計販売台数が前年同期比8・7%増となっている。

 消費の拡大を支えてきたのは、①所得の回復、②良好な消費マインド、③低金利の継続である。ただし注意したいのは最近になり、所得・雇用環境の改善ペースが低下していること、消費者物価が上昇している(生鮮食料品の高騰により8月の2・6%から9月3・6%、10月4・1%へ上昇)ことである。また、消費者期待指数が10月に1年半ぶりに100を下回ったように、消費マインドにも陰りがみられる。このため、11年は今年をやや下回る伸びとなる可能性が高い。以上より、11年の実質GDP成長率は10年の6・0%(見込み)を下回る4%台前半へ低下するものと予想される。

 リスク要因には、前回に取り上げた不動産市況悪化の長期化がある。すでにその影響は、①建設業の業績悪化、②金融機関の不良債権の増加となって表れている。市中銀行の不良債権比率は10年3月の1・48%から6月に1・94%、9月には2・32%へ上昇した。

 今後注意すべき点は、家計にどの程度影響が及ぶかである。近年不動産担保ローンが拡大した結果、家計の債務の可処分所得に対する比率が上昇している。所得が増加していること、住宅ローンの不良債権比率が低水準(ただし10年3月の0・38%から9月に0・51%へ上昇)であることから判断して、家計への影響は現在のところ限定的といえるが、住宅価格の下落と取引の減少が続くなかで金利が上昇していけば、家計収支への影響が深刻化する可能性もある。李政権にとって11年は安定成長を確保しながら、中長期的な課題である新規産業の振興、「質の高い」雇用創出などの点で実績を上げられるかが問われる年となろう。


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