リーマン・ショックによる金融危機から1年が過ぎ、世界の景気は回復傾向にあるが、「二番底」の懸念もあり楽観できない状況だ。世界経済の比重が中国などアジアに移行するなか、韓日両国は今年、G20(主要20カ国・地域)首脳会議とアジア太平洋経済協力会議(APEC)を主催する。両国の課題と展望について日本外務省の石兼公博参事官に聞いた。
――国連予測によると世界全体の今年の成長率は2・4%となっている。韓国政府は5%、日本政府は1・4%をめざしている。新年の経済をどう展望するか。
今回の危機が昔の大恐慌と違う点は、国際社会が連携して対応し、主要各国が景気刺激策を迅速に実行したということだ。これにより昨夏以降、主要国の景気が回復傾向を見せている。けん引役はアジア、とりわけ中国だ。この流れは今年以降も続くだろう。
しかし世界GDPの20%以上を米国が占めており、アジア諸国は欧米への輸出に依存している。欧米、特に米国では個人の資産のバランスシートが悪化しており、消費が伸びていない。このため回復のスピードは緩くなる。日本も回復基調にあるものの欧米への輸出依存度が高いうえ、円高の影響もあり、今後は消費刺激策や環境など新しい産業分野での雇用創出を模索する必要がある。一方、中国は雇用の確保と創出のために景気刺激策を続けているが、バブルへの懸念は消えない。
――金融問題はいまだ問題が多い。世界景気の「二番底」懸念される。
米国では雇用悪化が底を打ったという見方もあるが、失業率は高止まりしている。家計や金融機関の資本のバランスシートも悪化したままだ。欧州では旧東欧圏の金融の問題が未解決で、中東でも不安材料があり原油価格も不安定な状態に陥る可能性がある。
このような状況で、持続的に経済を回復させるには、新規雇用が期待できる分野への資源配分が必要だ。アジア各国も欧米依存からの脱却、つまりアジア域内での内需の拡大や成長の確保を検討していく必要がある。昨年ほどの上昇は期待できないとしても、ベクトルが上に向いている時に、新たな成長戦略を練ることも大事だ。
――韓日間の産業間競争は激化しており、環境など未来産業でもさらに激しくなることが予想される。産業間の協力のあり方をどう考えるか。
日韓は産業構造が似ているだけでなく競合する分野も多い。政府としては「競争と協力」が適切な形で行われる舞台を準備するということが大事だと考えている。競争は必要だが、ルールのある競争、それを通じて資源の最適な配分が実現され、両国民がともに利益を享受できる構造を作る必要がある。
環境分野では、李明博(イ・ミョンバク)大統領がグリーンニューディールを、鳩山首相が「鳩山イニシアチブ」を提唱しており、協力の余地は十分にある。産業協力でも素材や部品の見本市などを行っている。主体は産業界だが、政府としても支援できる分野は多い。さらに、より生産的な協力の枠組みを作ろうとするならば、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)が必要だ。中長期的に見た場合には、お互いが適切な競争を行い、生産的な協力を行える枠組みが実現できると考えている。
――今年11月に横浜とソウルで、APECとG20の首脳会議が相次いで開催される。欧米など先進経済の支配力は弱まり、アジアのウエートが高まるなか、韓日は新たな流れを促すメッセージを発信できるだろうか。
両国が協力して存在感を示すことが重要だ。G20で金融や経済危機の克服、持続的な成長戦略を考える際に、インドや中国などの協力が不可欠だ。他方、APECでは世界経済の成長センターとしての枠組みを十分に活用する必要がある。そのためには包括的な成長戦略を描かねばならない。市場主義経済の制度設計がしっかりしている日韓両国が地域統合を主導することが重要だ。
東アジア共同体のキーワードは開放性と機能的アプローチといえる。アジアの経済発展は外部に閉鎖的であっては難しい。太平洋を跨いで大きなネットワークを張り巡らしていくことで持続的な成長が確保できる。アジア各国やASEAN(東南アジア諸国連合)が一定の力をつけるための下支えをすることが政府の使命だ。金融分野ではASEAN+3に、能力と機動力がある国々が集まっている。分野ごとに優れた能力と機能を持つ国が中心になって協力関係の構築や制度化を推進することが、やがては共同体を築くことにつながるのではないだろうか。
――鳩山首相が東アジア共同体構想を提唱、韓日中首脳会議で3国間FTA推進に合意した。一方、韓日FTAは、いまだ足踏み状態にある。
日韓の間でしっかりとしたEPAを締結することが両国の経済発展にプラスになるだけでなく、東アジアの地域統合や地域協力にも重要な役割を果たすと思う。もう一つは、未来志向で協力すべき両国がEPA交渉を機に、さまざまなレベルでの意思疎通が飛躍的に高まる。
韓国側では部品素材産業の対日赤字解消に関心が高いが、単純に数字を減らすことに議論を集中することには意味がない。韓国の企業が日本でなかなかものが売れないことへの不満や問題点を取り上げて議論したい。市場慣行を含め構造的な問題があるのか、あるいは産業戦略に問題があるのかを議論する必要もある。逆に日本のビジネスマンが韓国で感じている問題点もある。それを含めて議論することに意味があると思う。両国政府のリーダーシップで次の段階に進めて行きたい。
――今年は韓日併合100周年の節目の年で、経済的にも人的にも両国の協力・交流は拡大している。世界の模範になるような関係作りに向けて提言を。
李明博大統領が2008年4月に来日した時、日本側と「成熟したパートナーシップ」を築くことで合意した。過去の歴史を踏まえ、両国が未来志向で協力して、地域や国際社会のために貢献するという内容だった。韓国はオリンピックを機に急成長を遂げ、民主化を成し遂げ、昨年はOECD(経済協力開発機構)傘下のDAC(開発援助委員会)に加盟し、名実ともに先進国の仲間入りを果たした。その韓国と日本がアジアのために何をするのかを考えながら協力関係を構築していくことが大切だ。過去の事実は事実として直視していかなければならない。
日本では韓国に親近感を持つ人の割合が、そう思わない人を上回っているが、韓国ではまだ逆の状態だ。このような意識のギャップをなくしていくことも重要だ。中長期的には若者の交流が大事だと考えている。高円宮記念日韓交流基金で顕彰された団体のように、交流を長続きさせることが大事になる。
両国間では協力できる分野が多い。ともに民主主義国で先進国経済であるという点、そして、技術レベルが高い。液晶パネルやDRAMでは韓国のシェアは世界一のレベルに達した。それを支えているのは教育だ。韓国の場合、GDPに占める教育投資の割合はダントツに高い。他方で少子高齢化や環境問題という共通課題も抱えている。両国が協力関係を強化することが、中国を含めアジアの中で意味のある地域構造を築いていけると思う。
――本紙読者へのメッセージを。
やはりお互いの国や歴史をよく勉強したうえで虚心坦懐に付き合っていくことが必要だ。韓国と日本は似ているようで違う、違っているようで似ている関係だ。類似性や文化の系統が似ているからと言って、それに甘えてはいけないと思っている。このポストに就いて、歴史を読み返した。それを通じて両国関係の未来について深く考えさせられることが多い。